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その一 何故私が?
「よく頑張った私。後はこのカナード王子ってキャラをクリアしたらコンプリートね」
私はコントローラーを手にし、モニターを流れるスタッフロールを眺めていた。
『クレア・アージュの天使たち』私が今プレイしていた女性向け恋愛シミュレーションゲームのタイトルだ。
偶然立ち寄った中古ショップで購入したこのゲームは正直クソゲー。
しかし、一部でカルト的人気を誇っており、私も興味があったので購入。
噂にたがわぬクソゲーッぷりを発揮している。
グラフィックとキャラクターデザインだけは一級なんだけど……シナリオがとにかく酷い。
攻略対象キャラの一人である第二王子のカナードなんて、クレアが他のキャラとのエンディングを迎えると、必ずと言っていいくらいに不幸な結末を迎える。
と言うか、大体のエンディングで国が滅んだり誰かが酷い目に合うという、最悪のシナリオばかりだ。
その中でも特に先ほども挙げたカナードは酷い扱いを受けている、スタッフは何かカナードに恨みでもあるのだろうか?
そして私は最後の一キャラであるカナード王子を除いて、すべてのエンディングを見たところだった。
「ふわぁー、流石に眠いなぁ。花金で明日は休みとは言え少し休むかなぁ……」
何とも言えない強烈な眠気が私を襲ってきた。幸い布団の上でゲームをやっていたので私はそのまま寝落ちしてしまった。
――
――――
ん? うーん、良く寝た……あれ? 思ったように身体が動かない。
「おめでとうございます、元気な男の子です」
女性の声が聞こえた。え? 男の子が生まれたの? ああ、それはお目出度いですね。
さて、思うように身体が動かないのは中々にキツイ。私はかろうじて目を開くことが出来たので周りを確認しようと目を開いた。
すると優し気な顔で私を覗き込む、上品で綺麗な顔立ちの女性が私を優し気な表情で見ていた。
バターンという音と共に髭を蓄えた男の人が入ってきたのが見えた。
「おお、産まれたか! よく頑張ったセレネ」
「あなた、ええ元気な男の子よ」
割とナイスなミドルのおじさんだ。
どうやらこの女性の夫みたいだ……ん? しかしどこかで見た人たちね?
「おお、可愛い子だ。ハインツお前も兄になるのだぞ」
「はい、お父様」
ハインツ? 最近どこかで聞いたことのある名前だ。そして見た事があると思ったこの人たち……さっきまでやっていたゲームの夢を見るなんてねぇ。
「セレネよ、私はもうこの子の名前を決めているんだ」
「どんな名前なんです?」
「ああ、男の子ならカナードと名付けようと思ってな」
「カナードですか良い名ですね」
夢にしては妙にリアルだな。ただよりによって何故、未攻略のカナード王子になる夢なんて見てるのだろう?
「あぁ、カナードはかつてこの国を救った、勇者様の仲間であったお方の名前なんだよ」
カナード王子の名前の由来、どうして勇者じゃなくてその仲間の名前なのよ……おっと、眠くなってきたわね。夢で眠れば現実に戻れるのかな?
「あら? 眠ってしまったわね。ふふ、見てこの子の寝顔」
「ああ、この子はきっと美男子になるぞ。はは、セレネにそっくりだ」
両親のそんな言葉を耳に私は眠りについた。
――
――――
そして再び私は目を覚ます。
あれ? なんでまたここにいるのかしら?
いやいやまさか、そんな漫画や小説じゃあるまいし、まだ夢の続きなのかな?
そうだ、少し体も自由に動くし。お約束でほっぺをつねってみればきっとわかるわよね、さあ、ギューっとつねると……痛い。
まさか本当にこれが現実? でも、こういったパターンって普通は主人公のクレアになるとかじゃないの? 最近だと悪役令嬢が流行ってるし、せめてそっち……あ、悪役令嬢でもソニアは勘弁ねアレはほぼラスボスみたいなものだし、隠しエンディングのあるユリアーナのほうでお願いします。
……いや、そうじゃない。なんでよりによってカナード王子なのよ! ヤバイわよヤバイ。これが本当にゲームの世界ならカナード王子はヤバイ、カナード以外の人がクレアとくっついたら人生が終わってしまう……
さらに困った事にカナード王子はゲーム内では容姿端麗、ただそれだけの人で後は凡才って、酷いのか酷くないのか分からない設定のキャラなのよ。
とにかく一旦落ち着きましょう。
あ、改めまして、カナード王子の中の人こと私『安住祥子』といいます。転生前は二十四歳、OLでした……ええ、俗に言う腐女子というヤツです。
私は一体誰に生前の自己紹介をしてるのだろう……どうしよう、カナード王子ってゲームじゃクレアと結ばれるか、クレアが隠しキャラと結ばれない限り、ロクなことにならないキャラだよ……まあ隠しキャラってのが実はなんちゃって悪役令嬢のユリアーナなんだけどね。
私が初回プレイはわざとバッドエンドを見るなんて、プレイスタイルでやってたら、何故かユリアーナエンドに……そもそも普通は隠しルートって一回クリアしないといけないとか、条件あるのが普通でしょ? ってゲームの愚痴は今は良いとしましょう。
困ったわね、よりによってカナード王子はクリアしてないのよね、どういったシナリオなのか分からないわ。
この先カナード王子として生きていかないといけないのなら、何とかしないと私に訪れるのは破滅ばかりなのよ。
私と国の平和のために破滅フラグは回避しないといけないわね。
「おしめの交換ですよカナード王子」
メイドさんの一人が私のおしめの交感にやってきた、中身は二十四歳児なのでこれは正直恥ずかしい、しかも今は男なのよねぇ、まずはこの状況に慣れないと恥ずかしさで死ねる……前途多難な転生劇になったものだ。はぁ……
まずは男になった事に慣れる所からはじめないとダメね。
私はまだ産まれたばかりなんだし、ゆっくりと考えていきますか。
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