その十 兄者が来た

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その十 兄者が来た

 六の月この月になると、本格的に我が兄ハインツが参戦することになる。  兄は容姿端麗頭脳明晰、弓の名手と非の打ち所がない、許嫁は美貌のメリンダ・ハインツ侯爵令嬢。普通に考えれば人生の勝ち組人生イージーモードな人物である。  そんな兄がクレアと結ばれてしまった場合……国が滅びます。  一番結ばれてはいけない組み合わせである、当然僕は死ぬ。  クレアは確かに綺麗な子だがメリンダも負けてはいない。  と、いうかユリアーナもニーナもぶっちゃけアイドルやってたらトップを狙えるレベルなんだよねぇ。  ソニア! テメーはダメだ! 「皆さん、おはようございます。私はハインツ・セレアスといいます本日から皆さんの授業の一つを受け持つことになりました」  忘れていた僕のクラスの担当だった……  そして兄は優雅にお辞儀をする。く! クラスの女子共がざわつく、僕も中の人基準であったら。ウッヒョー! 超イケメンじゃねぇかよぉ! と喜ぶところであるが、今はかなり外の人基準になりつつあるから素直には喜べない……というか、ライバルが増えて困ることの方が多いな。 「本日から一年間はこのクラスで指導教官候補生として、皆さんとともに私も学んでいきたいと思います」  そこら中から女子のため息が聞こえる。一部男からも聞こえる、どういった意味の溜息なのかは詮索しないでおこう、そしてクレアも少しボーとしてるように見える。  クレアの様子を見てたユリアーナは兄を凄い形相で見ていた。女子の中でハインツを睨んでいたのはユリアーナ君だけだよ。一応その人、次期国王なんであまり過激なことはしないでよ。 「私は名前の通りこの国の王族ですが、この学園では王族ではなく一人の講師として接して頂ければと思います」  そうは言うけど次期国王だぞ。そうそう、はいそうですかとはいかないだろ。 「はい、わかりました! ではハインツ王子でなくハインツ先生ですね!」  いたよ剛の者、ってニーナかよ! 「ええ、そう接してくれると先生も嬉しいです」  そう言ってにっこりと笑う我が兄、くあ! ハインツスマイルの破壊力マジやばい僕のカナードスマイルより破壊力は上か? 「カナード王子の兄上、恐ろしい人物ですね」 「ああ、我が兄ながら恐ろしい」 「ちょっと、カナード王子。私のクレアがヤバイ事になってるじゃないのよ。どうにかしてくださいまし、貴方の兄上でしょ?」 「お前のじゃないから、あと僕が兄上に勝てるわけないだろ」  あんなパーフェクトソルジャーに勝てる奴がこの国にどれだけいることか?  しかし身内が最大の敵とか悲しくなってくるな、容姿はほぼ五分だがそれ以外が負けまくっている。  容姿レベルはほぼ五分だが他の能力が上すぎて、そこから出るオーラがプラス補正となってイケメン度が二〇〇パーセントアップしてるのがキツイなぁ。  兄にばかり目が行きがちだが弟も恐るべき敵なんだよな、勝てそうなのはあの変態前髪クルクルくらいか。 「カナード王子どうされましたの?」  ユリアーナに声を掛けられ思考を止める。 「いや、少し思うことがあってね」 「お兄さまの事ですの?」 「そんなとこだね、弟も一年にいるから兄弟全員がこの学園にいるなぁってね」 「そういえば、弟さんも今年入学でしたわね」  弟も攻略対象だということを忘れていたとは不覚。  さて、兄上登場すると確か近いうちにイベントが一つ発動するな。  これはどうしようもないかな。  攻略対象とは言え、主役じゃない僕が動くことでどれだけ影響が出せるか? こればかりはやってみないと分からないな。 「これから忙しくなるな」  僕はそう呟いた。 「何かいいまして?」 「いや、なんでもないよ。ユリアーナもあの兄上が相手なのは厳しい戦いになるぞ」 「クレアさんがハインツ王子と……いやまさか」 「あり得る話だよ」  そんな未来があるのを知ってるのは僕だけなんだけどね、ただそのルートにはさせちゃいけない。これを知ってるのも僕だけだ。  そして兄ハインツの最初の授業が始まった、ちなみに科目は古代語学とかいう謎の科目だった、たぶん古典なんだと思う。  ――十五分後  ヤバイ、眠い。皆必死に睡魔と戦っている。  兄ハインツの弱点がこんなところで明らかになった。  説明が下手なのだ、理論的に話過ぎて内容が硬く逆に理解しにくい。  最初の授業なのもあるがこれは酷い、クレアも舟を漕ぎながら必死でノートを書こうとしている。  ふんふん頷きながら元気にノートを取ってる剛の者がいるな……ってニーナかよ!  ユリアーナは自分の太ももを抓りながら耐えてる。ライネスは……寝ていた、あとで兄に告げ口しておこう。  睡魔とのラストバトルが終わりを告げ、やっと解放された。  この授業はヤバイ、これは親切心でアドバイスをしておこう。 「兄さん、少しいいかな?」 「どうした? 学園では先生と呼んでくれないかな?」 「ああ、わかったよハインツ先生」 「それで? 授業で分からないところでもあったのか?」  どうやら初日なためか生徒の様子にまで目がいってなかったようだ。 「いやー、授業内容の事と言えばそうなんだけど。分かりにくすぎなんだよ先生の授業は」 「なに? 丁寧に教えたつもりなんだが?」 「そこだよ、丁寧すぎて逆に分かりにくいんだよ、もう少し噛み砕いて説明するほうがいいと思うんだ」 「そ、そうか。初めてのこととはいえ人に教えるのは難しいな」  僕の意見に耳を傾け真剣な顔で頷くハインツ。とても真面目な人だと思う。 「言いにくいんだけど、割と寝ちゃってる生徒も多かったよ」 「ぐ……、やけに静かだとは思ったが」 「まあ、初日だから仕方ないよ。次で挽回しよう」 「そうだな」  その後も少し言葉を交わして兄と別れた。  少し廊下に出て外の空気でも吸おうとしたところ、クレアがキョロキョロと辺りを見回していた。  ……あ、そうか! ここがイベント選択肢の部分だったのか忘れてた。  そしてクレアにちょっかいをかけているユリアーナを目撃するのであった。  ふ、無意識のうちに兄のフラグをへし折っていたようだ、まあいっか。
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