その十五 何かがおかしい

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その十五 何かがおかしい

 相変わらずクレアとの進展はないのだが、イベントが起こってるかもわからないのは厳しい。  しかし、ここにきてゲームではイベントだった出来事が発生。  僕が今目にしているのは兄であるハインツのイベントだ。  このイベントはクレアがハインツのハンカチを拾うことで始まる。 「どなたかハンカチを落としていますよ」  クレアが拾ったハンカチが誰のかを尋ねていた、少しするとゲームと同じように兄のハインツが自分のだと気づきクレアに話しかける。 「アージュ君、それはひょっとしたら私のかもれない、見せてもらえるかな?」 「あ、はいどうぞ」  ハインツはハンカチを見ると、やはりそこには王家の紋章が刺繍されていた。 「うん、この紋章が刺繍されているということは私のだな」 「あ、これそうか王家の紋章ですか。どこかで見たと思っていましたが」 「はは、そういえばうちの王家の紋章は何故か、あまりしられていないんだったね」  そうなのだ、うちの紋章って国旗になってるわけじゃないので知ってる人は少なかったりする。  これってどうなの? と言いたい部分ではある。  さて、このイベントが起きるのはハインツルートなのは当たり前なんだが。このイベントが始まる時期がおかしい、ゲーム内より遅いのだ。  しかもハインツとクレアの出会いのイベントは発生していない、これが発生してない時点でハインツルートは消えているはずのだが、しかもユリアーナの立ち位置と言い、ライネスがゲーム以上に変態だったり。  あまりにもクレアと他のキャラの進展の無さと言い、まさかとは思うけど。  これ、すでにゲームとは全然違う展開になってる? それとも僕が知らないルート?  ただでさえ攻略対象の一人だと干渉しにくいから困ってはいたが、どちらにせよ厳しくなってきたな。 「王子こんなところで何やってるん――もが」 「っし! 静かに」 「?」  僕の後ろからニーナが声をかけてきた、少しびっくりして声が出そうになってしまったよ。  慌てて僕はニーナの口を塞いで黙らせる。 「また、クレアさんですか?」  最近ニーナは僕がクレアを見ていると、ムスっとすることが増えてきた。  僕の未来のためにも国のためにも、頑張ってクレアを射止めようとしてるのに、僕の苦労もわかってほしいな、とはいえそれが明かせないのもキツイな。 「まあ、ね」 「王子は一体何を見てるんですか?」 「え?」  ニーナは不思議なことを言った、僕が何を見ている? 僕はクレアを見ているはず、そのはずなのにニーナの質問に答えることができない。 「く、クレアと兄上だよ」 「そうですか……」  僕が無理やりそう答えるとニーナが寂しそう……いや悲しそうな顔をした。そして何故か僕は凄い罪悪感を感じた。  何故か最近はニーナにクレアの事を聞かれると胸にチクリと痛みが走る。  クレアとハインツの会話が頭に入っては来なかった。  しかし、またも予想外の展開になっていく、二人の前に完全にゲームではなかった展開。  ここは選択肢によって、僕かアルファス、ユリアーナの誰かになるはずなのに、何故コイツが?  そこには二人の人影がハインツとクレアの前に立っていた。  ソニアと姉のメリンダだ。  会話が頭に入ってきていなかったが、雰囲気的にハインツとクレアはハンカチを拾ったことで会話が弾んでいたと見るべきだった、そこにソニアが姉を連れて登場と。  メリンダが何故ここにいるのか謎だが、不穏な雰囲気である。 「王子なんかいやーな空気ですよ」 「ああ、しかしなんでメリンダさんがここにいるのか謎だけど」  クレアたちの方を見るとやはりと言うか、ソニアの一声から始まった。 「ボバハハハ、見てください姉上。このクレアとかいう小娘は誰彼構わず男になら色目を使う娘なのです」  突然とんでもない事言い出したな、あの豚面。 「ハインツ様! 本当なのですか? そのクレアという女の方が私より良いなんて!」  続いてメリンダもなんか頓珍漢(とんちんかん)な事を言い出す。 「あの二人は何を言ってるんでしょうか?」 「わからない。けどロクでもない事なのは確かだろうね」  メリンダは突然ハインツにクレアの方がいいのかと詰め寄っていく、ハインツも何の事か分からず不思議な顔をしていた。 「メ、メリンダどうしたんだい? クレア君がどうしたって?」 「ハインツ兄さまはクレアに騙されているんですよ姉さま。見たでしょ、先ほども二人で楽しそうに談笑するさまを」  メリンダはソニアの言葉にこくこくと頷いていた。 「クレア君に騙されている? 何を言っているんだ、クレア君は私のハンカチを拾ってくれただけだよ」 「ボバハハ、あぁ、可哀想なハインツ兄さま、クレアに騙されてるのですね」  ソニアの言葉にクレアも反論する。 「騙す? 私がハインツ先生を? 何を言ってるんですか」 「男に色目を使って騙している悪女がとぼけているの? 今でも姉さまの許嫁を誘惑しているところなんでしょ? 汚らわしですね貧乏騎士の娘は、金持ちの男を捕まえに来たのでしょ?」  なんだかわけのわからない難癖をつけて、クレアを貶めようとしてるな。本当にクズなブタ面だ。 「王子……ソニアさまは一体何故このようなことをするのでしょう?」 「アイツは根っからのクズだ、深い意味はないと思う。セーラさんの時から全く変わってないんだよアイツは」 「流石にクレアさんが可哀想ですよ」 「仕方ない止めてこよう」  僕は今来たように振る舞い乱入する。 「っと、兄さんとクレア。おや? それにソニアとメリンダさんじゃないか。何をしてるんだい?」  ハインツは僕を見ると助かったといった顔をした。 「カナードか。いや、なにどうやらソニア君とメリンダ君が何か勘違いしてるようでね」 「勘違い?」 「ああ、私とクレア君が逢瀬をしているとね」 「そうです、私はただハンカチを拾っただけです」  うんまあ知ってるよ見てたからね。だから助け舟を出しに来たんだしね。 「まあまあ、メリンダさんも落ち着きなよ。あのクソ真面目な兄上がこんな目立つ場所でクレアと待ち合わせなんてできると思うのかい? もし、やるにしても隠れて会うと思うんだけどなあ」  僕があっけらかんと言うと、メリンダさんは難しい顔をしつつ聞いている。 「確かにカナード王子が言うことにも一理ありますね」  メリンダさんが僕の言葉に頷く。 「ソニアは大げさに物を言うことがありますからね、何かと勘違いしていたのでは?」 「ボバハ? そ、そんなことはありませんよ姉さま」  メリンダの反応に狼狽えるソニア、どうやらソニアが何かけしかけたようだ。  今のうちに畳みかけるかな、生前の僕ならこういったことは苦手だったがこの世界に来てからは随分と慣れたものだ。 「人の目もあることだし、また日を改めて落ち着いてから話したらどうかな?」  僕はソニアでは話にならないと思い、メリンダに向かってそう提案した。  メリンダは賢い女性なので話せばきっとわかってくれるはず。メリンダの肩が少し下がり一息ついた。 「……そうですね、私も少し頭に血が上っていたようです。クレアさんとハインツ様とは改めてお話させていただきますね」 「うんうん、そのほうがいいかな」 「ボバハ? 姉さまそれではクレアを放っておくということですか?」  豚面のヤツ狼狽えているな。しかしこんなことのために、わざわざ姉を連れ出してきたのか? 本当に人に嫌がらせすることに関しては妥協しないやつだな。 「メリンダとにかく後で話そう、私も一方的に勘違いをされてるのは気持ち悪いからね」 「わかりました、ハインツ様がそうおっしゃるのであれば。では後程」  ハインツのダメ押しで納得したようだ、クレアなんて何がどうなってるのか分からず固まっているな。そしてメリンダはお辞儀をするとその場を去っていった。  ソニアは当てが外れたのか、忌々しそうな顔をするとクレアを睨んでからメリンダの後を追っていった。 「すまないカナード助かったよ」 「気にしないで兄さん、どうせソニアのヤツが何か企んでるんだろうから」  ハインツは僕の許嫁がアレだということに何か罪悪感のようなものを感じているのか、本当にすまなさそうな顔をしていた。  固まっていたクレアも正気に戻り僕にお礼を言ってきた。 「カナード王子助かりました、ありがとうございます」 「いいっていいって、ソニアは一応あんなでも僕の許嫁だからね」  心にもない事を言って場を濁しておく。  とりあえず、あとのことは二人に任せ僕はこの場を去ることにした。  どうやら完全にゲームとはズレが生じているようだ、これが吉と出るか凶と出るか……出たとこ勝負か苦手だなぁそういうのは。  そんなことを考えつつ、ゲームとあまりにも違った展開のイベントは終了した。
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