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親父が死んだ――。
忙しないオフィスの使い古された固定電話から流れる妻の声を聞いた時、俺は正直面倒臭いと思った。
詰まり詰まった仕事を切り上げ、偉そうな上司に下げたくもない頭を下げて、雑にくたびれたジャケットを掴むと、緩んだネクタイを揺らして電車に飛び乗る。
乗った瞬間驚いた、あれ!?故障中じゃないよな!?
見回すとちゃんと乗客はいる。
電車ってこんなに広かったのか・・・
と思いつつ空いている席に座り、ふと車窓から外を眺めてみた。
長年この電車の乗ってきたが窓の外を見たのは初めてかもしれない。
まだ日があんなに高いのか――
帰宅すると家中がひっちゃかめっちゃかになっていた。
妻が引っ張り出したであろう箱や服を踏まないように膝を上げていると奥から声だけが飛んでくる。
「帰ったのなら早く着替えて!途中で子供達拾っていくから早くね!」
二度も急かされては仕方ない。
大人しく部屋の隅でカビ臭い喪服に腕を通した。
荷物を詰め込み子供二人を学校で拾って高速道路へ。
この車で高速を走るのはいつぶりだろう。
子供が小さかった頃はよくこうして出かけたものだが――
今では面と向かって話す事も少なくなった。
3時間程走らせて高速を降りると、どんどん風景が田舎じみてくる。
コンクリートの建物から背高い木々に変わり、道は狭くて複雑にうねる。
立ち並ぶ店などは無くなり、代わりに石造りの塀で囲われた古民家や電柵で囲われた田畑が繰返される。
「この辺り、懐かしいわねぇ。ほらあの公園、優と美結よく遊んだでしょ?覚えてる?」
「そんなの小1の時とかだろ?覚えてる訳ねぇじゃん」
それもそうだ、実家に来るのは久方ぶりなのだから。
広い道から一歩脇道に入っただけで車一台通るのがやっとの細い道になるのが田舎というもの。久方ぶりの実家の庭入りは手に汗握るものとなった。
「なんや兄さん、タイヤ振るとったで!お向かいさんの塀にぶつけるか思ってヒヤヒヤしたわぁ。昔は何回も通った道やんか!」
「うるさい、道が狭いのが悪いんだ」
着いて早々絡んでくる弟をあしらって荷物を引っさげ実家に入ると、中は黒服の人で溢れかえっていた・・・
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