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「あら誠ちゃんやないの!!遠いのにご苦労やったなぁ。ほら入って入って!」
親戚の叔母さんに引かれて奥に入ると、あっという間に集まっていた親戚達に囲まれてしまった。
「誠一や!おい皆、誠一が来たぞぉ!」
「あれぇ!もしかして優一くん!?大きなってぇ!もう優ちゃん言えへんなぁ!」
「美結ちゃんもべっぴんさんなってぇ、見違えてもうたわ!」
気持ちは有難いのだが、4時間程運転した後にこれは流石に堪えるので上手く受け流して何処かで大人しくしていよう。そう思っていた時、後ろから強引に腕を掴まれた。
「ちょ、兄さん何こんな所で油売っとんのや!はよ来てくれやな話進まんやろ!?はよ来いや!!」
弟に無理やり連行される形で俺はなんとかあのバーゲンセールから抜け出す事ができた。
子供達には悪いが、後は任せたぞ。
「美代子さんはこっち手伝って貰える?」
「あっ、はい!勿論!」
このまま上手く空気に溶け込んで大人しくしているだけ、そういつも会社でやってる事だ。
大した事は無い!事は無い。無い・・・筈・・・
で、どうして俺は長卓の上座に座っているんだーーー!!!
左を向けば葬儀社の方や親戚の男性集が並び、右を向けば組親から始まり組の方々がずらり。
皆一様に、真剣に分厚い帳面を開いたり叩いたり書いたり、はたまた電卓や算盤を叩いたり弾いたり回したりしながらも、絶えず凄まじい勢いで言葉が飛び交う。
そんな中、俺は只只掛け軸を背に肩を震わせていた。
こんな白熱したレベルの高い会議、今どき何処の企業でもなかなかお目にかかれねぇよ!!
「たっく拉致があかねぇ!なぁ!アンタだってそう思うだろ喪主よ!!」
亡き父の兄にあたる親戚の叔父が机を叩いて言うと、あれ程騒がしかった長卓が一瞬で静まり返った。
そして、皆一同に俺の顔を睨む。
「・・・ふぇ?!俺!!?」
確かにこの家の長男は俺だが、大学入学より俺は実家を出ており、結婚を機に戻ったがなかなか上手くいかず、子供達が小学に入ってすぐ飛び出すように今の家に移り住んでしまった。
それからは疎遠で、家庭を持ったが近くに家を建てた弟が実質跡取りの状態だったのだ。
「他に誰がおる!」
「いや俺なんかより、誠二がした方がいいでしょう!」
「誠二は次男、長男は誠一や!こういうもんはどうであれ長男の務め、長男として生まれた限り誠一が務めなあかん!!」
長男長男って――
いつもそうだった。
昔から親父もお袋も口を開けば長男なのだから。
そう言われ続けて努力して、結果都会のいい大学に進学したんじゃないか・・・なのに――
『そっちで就職する?お前は跡取りなんやぞ!帰ってこんかぁー!!』
毎日新幹線を使ってまで長い道を往復して勤めているのに、やれ帰りが遅いだの、寄り合いに出ろだの、田を手伝えだの――
『なんやその言葉使いは、都会にかぶれよって!やから町へ出すのは反対やったんや・・・全く、跡取りがこんなんじゃ先が思いやられるぞ!』
『なんや、親に楯突く気か!!おい!どこ行くんや!?誠一!!』
『誠一!!』
「・・・のか・・・せ・・・いち」
「誠一!!」
驚いて顔を上げると皆心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「あぁ、すみません。ぼーっとしてたみたいで」
頭をかくと皆ほっとしたのか、乗り出していた体を元の座布団の上に戻したが、弟の誠二だけは立ち上がって此方に歩み寄ってくる。
「兄さん、ちょっと」
俺は誠二に促されるまま席を立った。
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