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拒否の気持ちが伝わらなかった様で、谷田は私の腰を更に引き寄せ、耳の中に舌を差し入れて来た。
「ひゃ!」
彼の胸を強く押して、突き放した。
「何、耳弱いの?」
「違う!もう、やめてって事!」
耳を押さえながら、距離をとった。
「ふ~ん、鈴菜も感じてたの気のせいだってか?」
上着を正しながら、凝視してくる。
私は屈んでスカートのヨレを直しながら、ふと思い立って上目遣いに谷田を睨み
「私、付き合ってる人いるの。だから止めて!」
「…知ってる」
頭の上から、低い声が聞こえる。
姿勢をもとに戻すと、谷田の暗い瞳とぶつかった。
「託児室の小泉遼太郎だろ?」
「!!…知ってたの?」
「アイツといる時のお前、分かりやすいから…」
「じゃ、何で…こんな事」
「シテ見たかったから。スパコン並みに優秀な田中鈴菜さんが、どんな反応するか」
「サイテー!」
鞄からメイク落としシートを取り出すと、怒りのせいで勢い良く数枚引っ張り出し、谷田の口元に押し付ける。
彼の口周りには、私の口紅がバッチリ残ってる。
このまま2人で戻ったら、何をしてたのかバカでも分かる。
私も自分の唇を拭いて、立ち去ろうとした時、
「…応えてたクセに。アイツじゃ物足りないんじゃない?」
と嗤いを含んだ台詞を投げかけてきた。
私は振り返らず、路地を出た。
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