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「あれ?鈴菜どうした?気持ち悪い?」 私が口元を手の甲で拭いながら通りに出ると、 店の前にまだ数人残っており、 私と同じ中途採用組で、比較的仲の良い中島沙耶に声を掛けられた。 「あ。…うん、ちょっと悪酔いしたみたい」 「あー谷田が面倒見てくれたんだ、アイツ何気に優しいよね」 路地から出てきたであろう谷田に目をやる沙耶。 そう、アイツは面倒見が良い。 今回、幹事は山中君が引き受けてくれたが、専ら谷田がやってる。 ムードメーカーの谷田が最初、私の事を鈴菜と呼び捨てにし、必然的に皆真似する様になった。 彼に何で呼び捨てするのって噛みついたら、同期に田中姓が多いから区別する為と、至極真っ当な理由が返ってきた。 呼び捨てにされるせいか、皆との年の差を余り感じない。 谷田は、わざとソレを狙ったのか… 谷田が何故、乱れ飛ぶ噂の交際関係で刺されないか。 それは谷田との噂が流れた彼女達みんなが、直ぐ次の彼氏が出来るからだ。 円満離縁?それとも噂だけで実は付き合って無いのか? 谷田の交際期間=特定の女性の名が皆の口に上る期間は、短い。 短いが、数が多いので好き者だ、タラシだと中傷も多い。 でも谷田と仕事をしてみて、分かった事がある。 人の話を良く聞くのだ。 人が話してる最中は絶対口を挟まないし、真剣に相槌も打つ。 そして最後にズバッと切り込んで、核心に迫る。 そんな真摯な姿勢と裏腹に、投げキッスやウィンク等、お前は昭和のアイドルか!? って位ふざけた態度を、男女問わずする。 だから噂が絶えない。 しかし、それも相手と親密な関係を築き、個人的な話を引き出す為の、谷田なりの演技かも知れないと最近思い始めた。
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