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渡されたシートで唇を拭いた。 薄暗い路地から、通りへ去った鈴菜の後ろ姿を見つめた。 あんな事するつもりは無かった。 だが、近頃ずっと苛ついてた。 彼女と知り合って直ぐ、呼び捨てにしたのには他意はない。 同期に田中が4人いたから。 只、特異なキャリアを持つ年上の彼女を、周りが受け入れ易くなったのは、良かった。 広報と法務部は本社にあり、二人とも入社してから所属部署の移動はない。 自販機の前で良く考えてる姿を見かけた。 後、何故か視線が合った。 廊下やフロアで何気に見渡すと.、彼女の瞳とぶつかる。 親しみを感じて、良く弄った。 そして彼女と仕事を組んでみて、分かった事がある。 彼女は物事を俯瞰して考えるので、相手の利点も考慮に入れた様々なケースを想定出来る想像力を持っている。 又、設定が変わった時の切り返しの早さ、対応力。 それらは多分、彼女が今まで培ってきた知識と、前職での経験に裏打ちされている。 俺たち同じ年度に入社した中で、中途採用組は7人いた。 皆ズバ抜けて優秀。 自ら応募した者もいるが、会社に引き抜かれた者もいる。 その中で女性二人のキャリアが目を引いた。 田中鈴菜は元・裁判官。 司法試験に現役合格、卒業後 司法修習生の中でもダントツ優秀でないとなれない籍に身を置いた。 中島沙耶の方は、元・生保レディ。 毎年、営業成績トップの実績をもつ強者だ。 押しの強い営業ではなく、必要なモノを必要な人にがモットーで、友人知人が国内海外問わず多数、人脈が半端無いのだ。 俺も顔が広い方だと自認しているが、アイツには負ける。 鈴菜は、私生活でも先を行っていた。 35手前で子持ち、バツイチ。 シングルでフルタイムの仕事をしていれば、なかなか大変だろうに、泣き言を言わない凜とした姿勢。
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