1★

1/2
前へ
/7ページ
次へ

1★

 カシャン、というサムターンの回る音で高峰将(たかみねしょう)ははっと目を開けた。  真っ暗なワンルームに置かれたベッドの上に横になっていた将はあたりを見回す。床を鳴らす足音が微かに響いた後、眩い光が差し込んで、将は思わず目を閉じた。 「将、寝てたの? ああ……これ、電池切れちゃったんだ」  部屋の明かりをつけてこちらに近づいたのは、将の兄の(かい)だ。 「ごめんね、将。寂しかっただろ」  目を開けると、優しく自分を見下ろす海の顔があった。薄茶の長めの前髪に隠れる柳眉と切れ長の目は少し見つめただけで相手を夢中にさせてしまうほどキレイだった。整った顔の下の体もすらりとしていて、そんな体を包むスーツがよく似合っている。  本当に自慢の兄だった。 「……おねがい、兄ちゃん……これ、外して」  将は自分の両の手首に巻かれた革製の手錠を揺らした。そこから繋がる重い鎖が、シャラと涼やかな音を立てる。その鎖は金属製のベッドの頑丈な枠に繋がっていた。 「将のお願いはなんでも聞くつもりだけど、それはダメ。これ外したら将、家に帰っちゃうでしょ」  言いながら海は優しく将の頬を撫でる。短い前髪を撫でられ、将はびくりと体を揺らした。  大好きな兄のこの手が、愛しいと同時に怖い。 「か、帰らないから……」 「そっか、将。途中でコレ止まっちゃったから拗ねてるんだ。すぐにホンモノ入れてあげるから、そんなに怒らないで」  海はベッドへと膝を乗せると、スーツの上着を脱いで、ネクタイを引き抜いた。 「や、待って、大丈夫だから、おれ……」 「ん? ああ、俺が疲れてるって心配してる? 優しいね、将は」  海は微笑みながら、一糸まとわぬ将の後孔に入ったまま動かなくなった男性器を模した玩具を引き抜くと、それをベッドの下へ放り投げた。  床に落ちた玩具は少しだけ転がると、先日同じように将の体から引き抜かれた別の玩具にぶつかり止まる。  この部屋にはそんなものが溢れかえっていた。 「一日我慢してたご褒美、あげようね」  将の脚を抱え上げた海がひときわ艶やかに微笑む。海が自ら取り出した中心は既に将の中へ入る形を取っている。 「や、兄ちゃん、待って、やっ……!」  一日中玩具を咥えさせられ拡がったそこに海の中心が入り込む。もう嫌だと思っているのに将の体は海の侵入を喜ぶように、キュッとそれを締め付けた。 「将……もうすっかり俺の形覚えたね。やっぱり将は賢いね」 「ちが、やっ、あ、あんっ……も、やあ……」  海の中心に最奥まで貫かれ、将は声を上げる。そんな将に海は微笑むと、キスを落とした。 「嫌じゃないよ、将。教えたよね、なんて言うか」 「……兄ちゃ、お願い……もっと、して」  将がうつろに海を見上げて言うと、海が嬉しそうに笑った。 「いい子だね、将」  海が将の脚を更に高く抱え、もうこれ以上入らないというところまで腰を押し進める。  意識が混濁するほどの強い快感の中、将はどうしてこんなことになったのだろう、とぼんやりと思った。  将と海は、血の繋がった兄弟だ。高校二年の将と、去年大学を卒業し、就職と同時に一人暮らしを始めた兄の海――二人は恋人同士でもあった。 去年の秋ごろだったか。まだ海に憧れて髪を長めにしていた頃、男の先輩に告白された。将自身も女顔は自覚していたし、筋トレしても華奢なままの体は女子並みだと落ち込んでいたが、まさか同性から恋愛対象にされると思わなくて、もちろん断った。 しかし、それを知った海は、言った。 『将は俺のものになった方がいいね』  その言葉に驚いたけれど、憧れていた海にキスをされ、自分がずっと持ち続けていた海への気持ちは、恋だったのだと気付いた。 もちろん、この関係は誰にも告げたことはない。両親にだって内緒だし、友達にだって言ったことはない。言えるはずなかった。  血の繋がった兄と恋愛しています、なんて誰も信じてくれないし、受け入れても貰えない。  でも、それで良かった。誰に認められなくても、優しくて自慢の兄が自分のものになってくれた、それだけで将は嬉しかった。  そう、兄は本来優しいのだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加