第二話:美緒の場合③

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第二話:美緒の場合③

「小さい頃から? じゃあ、昔から両想いだったってことか……」 「でも、孝太郎くんには、いっぱいファンの女の子たちがいたから、声をかけられなかった……」 「あっ、それ、俺も同じ。俺もみんなの前で美緒に声かけられずにいた」 「えっ? そうだったの?」 「ああ、俺はずっと、初恋を追いかけてた。実は、一途なんだぜ、こう見えても」 「うふふふっ、そう見えない」 「このやろう~」  彼はそう言うと、私にやさしくゲンコツをしてきた。  私は、彼から勇気をもらって、もう一つ、秘密にしていたことを彼に打ち明けた。 「あのね、孝太郎くん」 「んっ? 何? ムシャムシャ……」 「後ね、私がこの坂の上でいつもお弁当を食べてた理由なんだけど……」 「んん……」 「実は、孝太郎くんがサッカーやっているのが、この坂の上から特等席で見られるからなんだ」 「そうだったの? だからいつもここで弁当食べてたんだ」 「うん……」  私は恥ずかしくて、顔から火が出そうなくらい、熱くなってたほっぺたを冷たくなった両手で覆った。 「美緒、お願いがあるんだけど……」 「なあに? 孝太郎くん」 「あのさ……、俺の……、俺の彼女になってくれない?」 「えっ? わ、私なんかでいいの……?」 「あぁ、俺、美緒が彼女になってくれたら最高かなぁって。また昔みたいに、美緒と洋介と3人で遊びたいしさ。いいかな?」 「う、うん、いいよ……」 「ありがとう、美緒」 「うん。私もありがとう。とってもうれしい……」  私は(こら)え切れない涙を彼に見せないように、さっと手で(ぬぐ)った。  それを見た彼は、(おもむろ)にそんな風に恥ずかしそうにしていた私に、こう言ってくれたんだ。 「今でも大好きだよ。美緒」  すると彼は、私の体をやさしく抱き寄せて、冷たくなっていた私のおでこを、彼の温かいほっぺで温めてくれた。  彼の首元からは、この坂の上のやさしい風と、彼の爽やかな香りが漂っていた。  私はずっと大好きで憧れていた彼が、こうして隣にいてくれることが信じられなかった。 「ねぇ、美緒?」 「んっ? なあに、孝太郎くん」 「明日も、ここで美緒に会えるかな?」 「うん。会えるよ。ここで待ってる。この坂の上で」 「ありがとう。美緒」  そう言うと彼は、一段と私を強く抱きしめてくれた。  私も彼の背中にそっと両手を回して、彼の服をぎゅっと握りしめていた。  冬の空は冷たく、坂の上も風が冷たかったけど、孝太郎くんと一緒にこうしていると、不思議とそれも気持ちよく清々しいほどに感じられた。 「あっ! 雪だ」 「ほんとだ。そう言えば、今日はクリスマスイブだったな」 「そうね。私にもサンタさんがやって来てくれたみたい。うふふっ」 「俺にも、かわいい美緒サンタがやって来たみたいだしな。あははは……」 「うふふふっ……」  私たちは、お互いのおでこと鼻をくっつけて、見つめ合いながら笑った。  空から降ってきた雪も、私たちの周りだけ全部溶けちゃうほど、二人でいつまでも寄り添い温め合った。  この『キミマチ坂の上で』……。 「孝太郎のやつ、いつ下りて来るんだ~、ハックション!!」 END
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