第一話:孝太郎の場合②

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第一話:孝太郎の場合②

 俺は次の日、また地獄坂の上で、弁当を持ってベンチに座っている彼女を見つけた。 「洋介、俺ちょっとここで休憩してるから、先に下りてて」 「はぁはぁはぁ、分かった孝太郎、早くお前も下りて来いよ、はぁはぁはぁ……」 「ははは、俺はすぐにお前に追いつけるよ」 「クソ、悔しいけど、それが現実か。先行ってるぞ、はぁはぁはぁ……」  俺は走って、洋介の姉ちゃんのところまで行った。 「ヨオッ! メガネっ子ニキビ! 約束通り来てやったぞ!」 「あ、こ、孝太郎くん……」 「おっ? 弁当2つあるっていうことは、それ一つはもしかして俺の?」 「そ、そう。作って来たよ。約束通り……」 「おー、それはありがたい。ヨシ! 一緒に弁当食べるか。(美緒、作って待っててくれたんだ……)」 「孝太郎くん、練習はいいの?」 「いいの、いいの。俺、ちょうど腹減ってて、もう腹ペコだからさ」 「じゃあ、これ。孝太郎くんの分……」 「オー、サンキュー!」  彼女が作った弁当は、張り切って作って来たのか、色々な食材がバランス良く入っているような、すごく立派で豪華な弁当だった。 「すげーじゃん! これ全部、メガネっ子ニキビが作ったの?」 「うん、そうだけど、私メガネっ子ニキビじゃないから。美緒だから……」 「あー、そうだった。ワリーワリー、メガネっ子ニキビ美緒」 「だ、だから違うもん! 美緒だから!」 「あはは、その怒った顔もかわいいな」 「えっ? か、かわいい……?」 「あぁ、そう。メガネを取って、ニキビが無くなったらもっとかわいくなると思うぞ。ムシャムシャムシャ……」 「えっ? メガネとニキビ……、それ、一番私が気にしてること……」 「俺さ、小さい時に見た美緒は、メガネもかけてなかったし、ニキビだってなかったし、今よりもっと元気だったけどな」 「わ、私、恥ずかしいの……、この顔、みんなに見られるのが……」 「もしかして、だから一人でここで弁当食べてたの?」 「そ、それもあるけど……」  彼女は顔のことを言われるのが、相当コンプレックスがあったんだと思う。  彼女は少し落ち込んだ様子で、俯き加減で弁当を食べていた。 「あ~、おいしかったぁ~。メガネっ子ニキビの弁当、どれも絶品だな」 「美緒だから……」 「俺、そろそろ練習に戻んなきゃ。怒られちゃう。弁当おいしかった、ご馳走さん!」 「う、うん……」 「じゃあ、また明日な! メガネっ子ニキビ!」 「だから、美緒……、だから……」  俺はそのまま地獄坂を猛スピードで駆け下りて行った。  ――そして、次の日、同じように地獄坂へ登って行くと、そこに彼女の姿はなかった……。 「(ちょっと、昨日、言い過ぎちゃったかな……)」 「はぁはぁはぁ、どうしたんだ、孝太郎。ボーッとして、はぁはぁはぁ……」 「い、いや、何でもない。行こうか、洋介!」 「お、おう。孝太郎、今日は特別速いなぁ~。ま、待ってくれ~」  俺は、反省していた。  昨日、彼女に顔のことを言い過ぎたことで、彼女が来なくなったんだと思ったからだ。  俺は彼女に申し訳ない思いでいっぱいになっていた。
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