第二話:美緒の場合②

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第二話:美緒の場合②

 それでも、私の憧れの彼は、元気に私にこう言ってきた。 「あ~、おいしかったぁ~。メガネっ子ニキビの弁当、どれも絶品だな」 「美緒だから……(もう、私の方が先輩なのに)」 「俺、そろそろ練習に戻んなきゃ。怒られちゃう。弁当おいしかった、ご馳走さん!」 「う、うん……」 「じゃあ、また明日な! メガネっ子ニキビ!」 「だから、美緒……、だから……。(孝太郎くんのバカ……)」  彼はそのまま地獄坂を猛スピードで駆け下りて行った。  私はその後、あの坂の上には行けなくなった。  憧れの彼には会いたいけど、この顔を見られたくない気持ちの方が勝っていたから。  私は、自分自身を変えるため、大学のテスト休みを利用して、メガネをコンタクトに変え、ニキビを徹底的に治した。  ――そして、クリスマスの前日、またあの坂の上でお弁当を2つ持って彼を待っていた。  そこへ、いつものように、弟洋介と一緒に、憧れの彼が坂を走って登ってきた。 「洋介、遅いぞ。置いてくぞ」 「はぁはぁはぁ、待ってくれよ。孝太郎……」 「んっ? あれっ?」 「ど、どうしたんだ? 孝太郎、はぁはぁはぁ……」 「あっ、いや、何でもない。洋介、また先に下りてて」 「はいはい、先に行けばいいんでしょ? お前、すぐに追いつくもんなぁ~、はぁはぁはぁ、じゃあ、先に行ってるぞ」 「おう! すぐに行くよ」  彼は私のところへ駆け寄って来て、こう言った。 「ヨオッ! 久しぶりじゃんか、メガネっ子? ニキ……ビ……?」 「あ、こ、孝太郎くん……」  彼は振り向いた私の顔を見て、驚いている様子だった。 「ど、どうしたの? メガネは?」 「コ、コンタクトにしたの……」 「何か、いつもと違う感じがするけど、最近見ない間に、キレイになった……?」 「あっ、肌のこと? ニキビをきれいにしたの」 「そうか、それで雰囲気も違って見えたんだ」  私の憧れの彼は何故だか、いつになく顔が真っ赤になっていた。 「もう、メガネっ子ニキビって、言わせないんだから」 「あはは、もう言えないな。そのあだ名……」 「うふふっ……」  彼は突然、真剣な顔をして私にこう言ってくれた。 「美緒、俺、今の笑ってる美緒の顔が一番好きだな……」 「えっ?」 「実はさ、本当は俺、この大学に入ったの、美緒がいたからなんだ」 「えっ? 私がいたから?」 「そう。昔、よく洋介と3人で遊んでた頃、美緒のことが俺好きだった……」 「そ、そうだったの……」 「でも、中学に入ってから、美緒は全然俺と遊んでくれなくなったじゃん? だから、嫌われちゃったのかなって思ってた」 「ううん、そんなこと思ってないよ」 「でも、俺、初恋だった美緒のことが忘れられなくて、それで美緒のいるこの大学を選んで入ったんだ」 「そうだったんだ……」 「今の美緒は、昔の美緒のままのようで、とてもかわいいよ」  私は急に恥ずかしくなって、彼の顔を見ることが出来なくなった。 「その照れて、ほっぺたがピンク色になるのも、昔の美緒みたいで大好きだな」 「もう、おだてないで~」 「あははは」  私は恥ずかしかったけど、自分を変えるために、勇気を振り絞って、彼に本当のことを打ち明けた。 「実は……、私も、孝太郎くんのことがずっと好きだったの……」 「えっ? そうなの?」 「うん……。小さい頃からずっと……」
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