27人が本棚に入れています
本棚に追加
第二話:美緒の場合②
それでも、私の憧れの彼は、元気に私にこう言ってきた。
「あ~、おいしかったぁ~。メガネっ子ニキビの弁当、どれも絶品だな」
「美緒だから……(もう、私の方が先輩なのに)」
「俺、そろそろ練習に戻んなきゃ。怒られちゃう。弁当おいしかった、ご馳走さん!」
「う、うん……」
「じゃあ、また明日な! メガネっ子ニキビ!」
「だから、美緒……、だから……。(孝太郎くんのバカ……)」
彼はそのまま地獄坂を猛スピードで駆け下りて行った。
私はその後、あの坂の上には行けなくなった。
憧れの彼には会いたいけど、この顔を見られたくない気持ちの方が勝っていたから。
私は、自分自身を変えるため、大学のテスト休みを利用して、メガネをコンタクトに変え、ニキビを徹底的に治した。
――そして、クリスマスの前日、またあの坂の上でお弁当を2つ持って彼を待っていた。
そこへ、いつものように、弟洋介と一緒に、憧れの彼が坂を走って登ってきた。
「洋介、遅いぞ。置いてくぞ」
「はぁはぁはぁ、待ってくれよ。孝太郎……」
「んっ? あれっ?」
「ど、どうしたんだ? 孝太郎、はぁはぁはぁ……」
「あっ、いや、何でもない。洋介、また先に下りてて」
「はいはい、先に行けばいいんでしょ? お前、すぐに追いつくもんなぁ~、はぁはぁはぁ、じゃあ、先に行ってるぞ」
「おう! すぐに行くよ」
彼は私のところへ駆け寄って来て、こう言った。
「ヨオッ! 久しぶりじゃんか、メガネっ子? ニキ……ビ……?」
「あ、こ、孝太郎くん……」
彼は振り向いた私の顔を見て、驚いている様子だった。
「ど、どうしたの? メガネは?」
「コ、コンタクトにしたの……」
「何か、いつもと違う感じがするけど、最近見ない間に、キレイになった……?」
「あっ、肌のこと? ニキビをきれいにしたの」
「そうか、それで雰囲気も違って見えたんだ」
私の憧れの彼は何故だか、いつになく顔が真っ赤になっていた。
「もう、メガネっ子ニキビって、言わせないんだから」
「あはは、もう言えないな。そのあだ名……」
「うふふっ……」
彼は突然、真剣な顔をして私にこう言ってくれた。
「美緒、俺、今の笑ってる美緒の顔が一番好きだな……」
「えっ?」
「実はさ、本当は俺、この大学に入ったの、美緒がいたからなんだ」
「えっ? 私がいたから?」
「そう。昔、よく洋介と3人で遊んでた頃、美緒のことが俺好きだった……」
「そ、そうだったの……」
「でも、中学に入ってから、美緒は全然俺と遊んでくれなくなったじゃん? だから、嫌われちゃったのかなって思ってた」
「ううん、そんなこと思ってないよ」
「でも、俺、初恋だった美緒のことが忘れられなくて、それで美緒のいるこの大学を選んで入ったんだ」
「そうだったんだ……」
「今の美緒は、昔の美緒のままのようで、とてもかわいいよ」
私は急に恥ずかしくなって、彼の顔を見ることが出来なくなった。
「その照れて、ほっぺたがピンク色になるのも、昔の美緒みたいで大好きだな」
「もう、おだてないで~」
「あははは」
私は恥ずかしかったけど、自分を変えるために、勇気を振り絞って、彼に本当のことを打ち明けた。
「実は……、私も、孝太郎くんのことがずっと好きだったの……」
「えっ? そうなの?」
「うん……。小さい頃からずっと……」
最初のコメントを投稿しよう!