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ため息をついて、時計を見る。
「あ、ゆきです。30分延長でお願いします」
徹也の声で目が覚めたのか、リョウが何かつぶやいた。
「延長? 延長って、いくらだっけ?」
リョウの声はかすれて、小さかった。
「この延長は俺の勝手なんで、俺が払います」
延長料金を心配して目が覚めたのかと思ったが、リョウは身動ぎもせず、起きださなかった。
徹也はリョウをそのままにして、軽くシャワーを浴び、着替えた。
濡らしたタオルを持って戻ると、ベッドの脇に膝をつき、リョウの身体を清め始めた。リョウはすぐに目を開けて、はにかむ。
「ありがと、シャワー浴びるからいいよ」
かすれた声でいい、やっとといった感じで身を起こした。
その表情に徹也は胸が締め付けられた。
(カワイイ。俺性懲りもなくこの人が可愛くてしかたねえや)
リョウはまだ腰が立たないのか、立ち上がりかけて、やめた。ベッドの縁に腰かけてため息をついた。
「どこか、痛む?」
「ううん、脚に力が入らないだけさ。大丈夫」
「良かった。途中から仕事だって忘れて俺、夢中になっちゃって…。すみませんでした」
頭を下げると、さわさわと撫でられた。
顔を上げればほわんとしたオッサンの顔だった。
「眼鏡、どこかな?」
「ここに」
風呂場から持ってきて、サイドテーブルに置いていたのを渡す。
眼鏡をかけると5歳は若返って見える。
リョウは徹也の顔をまじまじとみて「ああ、ゆき君って、結構男らしい顔してるよね」と言った。
「僕、ゲイになっちゃったのかな?」
37のオッサンがいうセリフじゃない。でも、どうみてもオッサンで、可愛い。
「何言ってるのリョウさん、リョウさんはどう見てもノンケだよ」
苦笑いする。
「君と、したのに?」
そっと伸びた手が、タオルを握ったままの徹也の右手にのびてきた。やっぱり気付いていた。ベッドの陰に隠した左手の爪痕が痛む。
手を出すべきでないノンケに手を出してしまった。今もキスしたくてたまらないってくらいだから始末が悪い。
リョウの眼鏡越しの目が必要以上に潤っていて、誘っているようにも見えた。
そのままキスしてしまいそうな衝動をこらえて、そっとリョウの手をはずすと、モニター前の椅子に腰かける。こちらを不安そうにみているリョウを真っ直ぐ見た。
「アナルセックスをする人が必ずしもゲイじゃないし、ゲイだって、オーラルセックスしかしたことないとか、キスだけで身体を繋げることすらしない人も少なくないんだ。プレイの好みは性的好みとは必ずしも一致してない」
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