花の色はうつりにけりな悪戯に

1/1
前へ
/1ページ
次へ
華族とは太古の昔から花を食べ、花を愛し、花と共存してきた民族。 花と一体化した彼らはどんな不治の病もウイルスさえも効かなかった。反対に毒にも薬にもなり得るその特異体質のせいで各国の勢力争いに巻き込まれ利用されることも少なくなかった。 しかし彼らはそのどんな薬よりも効くという血を寄付することで国から莫大な援助金を貰い保護され貴族と同等の権利を与えられた。 それを見た民衆が時に彼らを崇拝し迫害を繰り返した。しかし彼らの血で沢山の国の人々の命を救ってきてくれたのも事実だった。 そして今日華族のローズと桜の結婚式を挙げる。 彼らは幼い頃からの知り合いだった。 中等部を卒業したばかりの桜が親族に見送られながら教会のバージンロードを歩く。 その中には、桜の兄の喜久と幼馴染のリリアもいた。 リリアは幼い頃からの親友だった。 彼女とすれ違う瞬間、初めてリリアと交わした約束を思い出した。 「はじめてのキスは桜がいいなぁ」 「え?」 何でもない会話ように彼女は言った。 ローズとの結婚が決まり、あと数日で中等部を卒業するかどうかの頃の出来事だった。 「だってどうせ私たち、大人になったら結婚して子供生まなきゃならないでしょう?」 「 ……そうだね」 希少種同士はより強い種を遺す為、結婚して子どもを産まなければならない。 勿論それはリリアも例外ではない。 華族に生まれた時点で運命は既に決まっているのだ。 「だからファーストキスは好きな人とがいいの」 私たちはその時既にお互いが友だち以上の、世間的には許されない感情を抱いていていることを知っていた。 知っていて、私たちは禁忌を犯した。 「ん…」 唇と唇をくっつけるだけの拙いものだったが、その柔らかい感触の余韻に浸っているとリリアが桜に抱きついた。 「リリア…?」 「私がもし誰かのものになったとしても、心は桜だけのものだから」 その時の彼女の声とワイシャツの袖が少し湿っていた。 わかっている。 私たちは一緒になれないって。 16になったら優秀な番と結婚し更に優秀な種を残すのがこの世界のルールだ。 この関係に未来はないのだと。 そんなことはわかっているのにー。 協会で誓いの言葉を交した後、新郎が新婦のヴェールを上げる。 結婚相手の顔を初めて直視したかもしれない。 それくらい私にとってどうでもよかった。 「本当に、兄にそっくりだな」 ククッと可笑しそうに笑うローズ。 私は知っている。 これが愛のない結婚だということも。 この男が私を愛していないことも。 そして、皮肉なことに結婚相手は私の愛する人に顔がそっくりだった。 だからこそ私はこの男を選んだ。 「お互い様でしょう」 そして私たちは「偽り」の誓いのキスを交したー。 思い出になんかしたくない。 その為に私が華族であり公爵家の貴族でもあるローズの花嫁となってこの世界のルールを変えなければならないのだ。 例えどんな手を使ってでもー。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加