姫騎士の目に映る野獣は子犬ですか?

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エリス勇者育成男子高等学校。 勇者を目指すものが入学する優秀校な男子校である。 勇者育成学校というだけあり、何かトラブルがあれば腰に下げた剣でデュエルをし、勝った者に従うというルールがあるこの学校。だが、そんな中一度もデュエルを申し込まれたことのない大男、ザックは、悩んでいた。 「見たことない生徒がいるな」 「え?嘘、どこどこ」 ザックは、今日もいつもの時間7時ぴったりに学校に登校した。 道は自然とキリストが海を割ったように開いていく。 「女みたいじゃないか?」 「ここは男子校だぞ」」 そんなザックの行く手を、今日は阻むものがいた。 「うそ、女みたいに可愛いじゃん」 「本当だ!君何組?本当に男?」 「あ・・・あの」 2年生の教室に行こうとしたザックの前に、男子生徒が2人。1人の男子生徒を取り囲むようにして立っていた。 「通行の邪魔だぞ」 ザックは、巨人のように男子生徒2人を見下ろしていった。 「は?」 「ああ?」 ザックの声に振り返った、いや見上げた男子生徒の顔色はみるみる青ざめていき、飛び上がるようにしてその場から離れた。 「やべえ!野獣ザックだ。中学の時先生を殺して食ったって噂の」 「野獣ザックじゃねえか!行こうぜ!あいつに関わったら命がないらしい!」 男子生徒は、よくある眉唾ものの噂を吐いてザックに背を向けて走って行ってしまった。 「ったくなんだってんだよ。朝から気分悪いぜ」 「あの・・・」 ザックの目の前に取り残されていたのは、肩までの黒髪に、穢れのない純粋な瞳をした・・・女みたいに可愛い顔をした青年だった。 身長は160センチくらいで、ザックから見たら女みたいだった。 「ありがとうございました!」 こんなヤツいたか?ザックは首を傾げた。 「いや、俺は何もしてねえよ」 「あの、今日、僕ここに転校してきて職員室がわからなくて」 「転校してきた?」 見たことねえと思ったら転校生だったのかよコイツ。ザックは目を見開いてまじまじと青年の顔を見つめた。荒野に咲く一輪の花のような青年だった。 「は、はい・・・そのもしよかったら、職員室の場所を教えていただけませんか?」 上目遣いで困った顔で見られると、なんか背中がかゆくなってくる。ザックは顔をそむけた。 ザックは昔からいかつい顔と、体格のいい体に2メートルもある図体のせいで、人から怖がられてきた。ここでは野獣ザックなんてあだ名まで勝手につけられて恐れられている。だが、ザックは見た目に反し、花を愛で、弱い人を助けたいと思う心優しい青年だった。 勇者を目指す学校に、真面目に勉強し、いい成績で入学したザックだったが、見た目で判断され、生徒たちや先生から恐れられていた。 だが、ここでザックは閃いた。 ザックの顔を見ても尚、職員室を聞いてきた青年にザックは、友達になれるんじゃないかという微かな希望を抱いたのだった。 「あ、あっちだぜ」 転校生、ついに来た転校生! 今まで友人彼女親友ができなかったザックにとって、彼こそザックを恐れず普通に話しかけてくれたほぼ唯一の青年だった。 「俺は、ザック2年生。お前は?」 「ぼ、僕はエミルです。あっ、僕も2年生です」 ザックは、それを聞いて心の中でガッツポーズをした。 ともだちだ!友達になろう。ザックは深呼吸をして、ずっと言いたかったことを言った。 「エミル、お、俺、俺と」 「ザックさん、親切ですね。よかったら僕とお友達になってくださいませんか?」 ザックは、その言葉に心の中で頭を振り乱しガッツポーズを繰り返していた。 そして祝福の腹踊りが頭をかけめぐり、テンションが上がったザックは、汗っかきなので手が汗でびしょびしょになっていた。 「お、おう、よろしくな。エミル!」 「はいっ」 エミルは、にこにこしながらザックを見上げていた。ザックは心の底から嬉しくて涙がこぼれそうだった。 「あっ、職員室、ついたぜ」 「本当だ、ありがとうございますザックさん、同じ組だといいですね」 ザックは、生まれて初めてそんなことをいってもらえて、嬉しくてその場で踊ってしまいそうだった。 「お、おうっ!」 ザックは、職員室にはいっていくエミルの後ろ姿をぼーっとしながら見つめていた。
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