第九章 青藍

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第九章 青藍

 時間が過ぎるのはあっという間だ。気がつけばまた金曜日。仕事を終え自宅に戻ると、またやってくるであろう青年を思う。待っているような、それでいて来なければ良いのにと思う。こうやって一人部屋にいると余計なことを考えてしまう。  「出かけるか」  別段行きたい場所も、会いたい相手もいない。楽な服に着替えると夜の街へと出かけた。行きつけのバーのカウンターに座る。音楽の流れる店内でカウンターに置かれたキャンドルの光をぼんやりと眺める。LEDキャンドルの光はまるで本物の炎をゆらめかせるようにゆらゆらと揺れる。  「ひとり?」  声をかけられ右を見ると若い男がそこにいた。いつ隣に座ったのだろうか。  「ああ」  まるでこちらを値踏みするように見ている。視線が身体の線をなぞっていくのが分かる。  「誰か待ってたりする?」  「いや」  伸びてきた手が太股から内側を辿るように動く。誘われている。断る理由も無い。  「なあ、何歳だ?」  若い身なりに一瞬身構える。以前だったら聞くことの無かった質問をした。あまり聞かれたことがないのだろうか、その問いに一瞬首を傾げたその男はにっと笑うと指を4本立てた。  「にじゅう、よん。年下は駄目かな」  「君こそ、俺で良いのかな」  その言葉を了承と捉たのか椅子から立ち上がると御園の肘を軽く引いた。  翌朝、目が覚めると隣に若い男が眠っていた。早く家に帰ってシャワーを浴びたいと立ち上がる。  「また会えますよね」  眠っていると思っていた青年は身体を半分起こした。もう会うつもりはなかった。御園は静かに首を横に振った。財布から数枚の札を取り出すとホテル代だとサイドテーブルに置いた。  床に落としてあったシャツは皺になっていた。
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