第十一章 薄碧い

2/4
前へ
/103ページ
次へ
 土曜日の朝になり、いつ碧稀が来るのか聞いていなかったと思った。今週は食事にでも連れて行ってやろうと思っていただけに余計気になる。携帯確認しても何の連絡も来ていなかった。こちらから連絡してみるかと考えていた時に電話がかかってきた。  「珍しいな、電話をかけてくるなんて」  電話の向こうの碧稀は小さい声で「すみません、風邪をひいたみたいです」とだけ言う。  「無理はするなよ。何か要るものあるか?届けるよ」  寝ていれば治りますと丁寧に断られた。通話を終えて何故か落ち着かない。本当に体調が悪いのだろうか。それとも単に会いたくないと思ったのだろうか。 また週末に伺いますとは連絡が来ていたが、具体的にいつくるとは書かれていなかった。そんな些細なことが気になる。 落ち着かないのなら行動を起こす。そのほうが気が楽だ。御園は車の鍵を掴むと碧稀の家へと向かった。  以前一度だけ来たことのある家の前に車を停める。家の前には車が停められるスペースが十分にあった。玄関から声をかけ、少しの間だけ停めさせて欲しいと頼んだ。外階段を登って二階の扉を叩く。ゆっくりと開いたドアの向こうには疲れた表情の碧稀がいた。  「御園さん?」  「大丈夫と言われたのだが、出かけるついでに少し差し入れを持ってきたよ」  「あ、ありがとうございます」  ふらふらとしていて、かなり具合が悪そうに見えた。部屋の中を見ると敷きっぱなしの布団の横にはゼリー飲料のゴミが転がっている。  「本当に具合が悪かったのか……」  「え?」  「いや、熱は?」  「分かりません」  首筋に手を当ててみる。熱い、かなり熱があるようだ。これは病院へ連れて行ったほうがいい。  車に乗せる。窓に頭を預けてぐったりとした様子で座った碧稀の吐息が荒い。大丈夫なのかと不安になってくる。行きつけの病院は無いと言うので近くの総合病院へと連れて行く。 医師からの説明によると肺炎をおこしかけていたらしい。脱水症状があるので今点滴を受けながら眠っていますと言われた。 入院するほどではないので落ち着いたら帰れるらしいが、何時にどこへとも言われない。困ってしまい、そのまま待合の椅子でぼんやりと音声の流れないテレビの画面を見ていた。  「御園さん、大丈夫ですか?」  病院の待合はすでに午前の診察を終え、もう誰もいなくなっていた。御園は待ちくたびれて眠ってしまっていたようだ。肩を軽く揺すられ、目を開ける。目の前には碧稀の心配そうな顔があった。  「あ、ああ。悪い。うとうととしていたようだ」  「良かった、具合が悪くなってしまったのかと思いました」  笑顔が少しだけ疲れて見えた。けれどもしっかり話はできている。少しだけ安心する。それでもこのまま下宿先へ送って行くのは病人に無理をさせるようなものだろう。誰も看病してくれる人はいない。マンションへ連れて帰って自分が面倒をみた方がまだましだろう。  「心配だから連れて帰るよ。二、三日休めば風邪も治るだろう」  その言葉に碧稀が少しだけ笑った。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加