第十一章 薄碧い

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 看病するというほどでも無い。薬を飲んで寝ている碧稀に近くのデリバリーで届いた食事を出すくらいだ。それでも自分の近くにいることに安心する。 今朝、部屋を訪ねた時はその様子に驚いたが、薬のおかげか高校生の体力のおかげか、もう随分と顔色が戻っている。  御園はベッドの上で寝息を立てて眠っている碧稀をじっと見つめていた。 今、目の前で眠っている青年を幼い子どもとして見ることができなくなってしまった。恋愛対象外だなどど言っていたのに。自分自身で言い訳を探している。 何が問題か、年齢?家族?それとも?考えれば考えるほど全てが駄目だ。長く見ていると余計な事しか考えられない。このままここにいては駄目なのだ。  『目が覚めたら、サイドテーブルに置いてある薬をのんで。電話をくれればすぐに戻る』  頭を冷やそうと、とりあえず外に出る。  駅のそばにあるカフェで通りを眺めながら時間を潰す。道行く人それぞれに人生があり、そこには悩みがあり、喜びや悲しみもある。面白いなと、とりとめのないことを考えていたら見知った顔の男が駅から出てくるのが見えた。  「あいつ、本当にこの辺りに住んでいるのか」  こちらには全く気がついていない様子だ。このまま通り過ぎてくれればと思っていた時に目が合ってしまった。まずいと思った時にはすでにこちらに向かって歩き出していた。  「御園さん、こんにちは」  「ああ」  「今日はお一人ですか?これから一緒に出かけたりしませんか?」  「しないよ」  「相変わらずつれないなあ……やっぱり重いですかね?」  「何の話だ?」  「いえ、こちらの話です。また今度デートしましょうね」  それだけ言い残すと、こちらの返答も聞かずにさっさと店を出て行ってしまった。風のようにするりと通り抜けていく。そよ風ではなく、つむじ風。つかみどころがないのに切り付けていくような風だと御園は思った。
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