第十一章 薄碧い

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 予定外の来訪者によって居場所がなくなったような気になってしまった。仕方なくマンションへと戻る。静かにドアを開けて寝室の様子を聞き耳を立ててうかがうが、まだ眠っているようだった。  やはりこの空間は落ち着かない。  寝室からことんと小さな音がした。そして御園の携帯が震えた。 目を覚ましたのだろう。携帯にはこたえずに寝室の扉を開けた。 カーテンを閉め切った薄暗い部屋でベッドに座っているのが見えた。  「体調は?」  「ありがとうございます、すっきりしたような気がします」  確かに少し顔色も戻っている。まだ辛そうに見えるがそれでも安心する。連れてきて良かったと思っていた。  「そうか」  そばに寄って頭に手を乗せた時にふと衝動が走った。いつもよりほんの少しだけ潤んだその瞳のせいかもしれなかった。  御園のその手は顔へと滑り落ちるように動いた。碧稀は自然とその手に頬を寄せ目を瞑った。  熱のせいで辛かっただけなのかもしれない。けれども、まるでそれが合図であったかのようだっった。触れるか触れないか掠めるような口づけ。一瞬のことだった。  「えっ?」  御園の目の前には丸く目を見開いた碧稀がいた。ふと笑いが溢れる。  「悪い。いや、言い訳はやめておこう」  「今っ、あの」  「可愛いと思ってしまったから仕方ないよな」  「あっ、あのっ」  「何か食べられそうか?」  「えっ、あ、はい。あ、いえ」  「ん?どっちだ?」  もう負けを認めるしかない。分かっていた。駄目な相手でも出会ってしまったのだから仕方ない。  「御園さん、さっき」  御園は小さくため息をつくと、ぐいとベッドに碧稀を押し倒した。  「降参だよ、もう一度口づけてもいいか?」  「だ、駄目です」  「は?」  「か、風邪がうつります」  「ふはっ、風邪が…… ね。まあ、いいか」  御園は体を起こすと碧稀の手を引いてベッドから引き起こした。  
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