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第十二章 碧と碧
一度認めてしまえば後戻りができないことを知っていた。
容姿は碧人とよく似ているのだから、もちろん好みでしかない。その上で冷たい箱だった場所を居心地の良い部屋に変えてくれた。
まるで寂しさを笑顔で埋めつくしてくれるように。
そんな相手に健気に好意を伝えられ惹かれないはずがない。
一度腕の中に抱え込んでしまえば手放せないと知っていた。
だから自ら離れて行ってくれればとどこかで思っていた。
そばに置いて置くのはまずいという気持ちと、離したくないという気持ちがない混ぜになり、動きが取れない。
メールを見て自然に笑顔になるのも、空いた時間に食事でもと思う理由も相手が碧稀であったからだと分かっていた。
大きくため息をつくと、ほとんど使わないキッチンに立つ。何か食べるものを作らなくてはと思ったが、何も材料がない。一人暮らしも長い、出来ない訳では無いがこれまでは必要がなかった。
コンビニで何か買って来るしかないと、携帯を掴んで玄関へと向かった。
「御園さん?どこへ行くのですか?」
後ろから声をかけられ、振り返った先に見えた不安そうな顔、その表情を見て肌が粟立つ。劣情が煽り立てられる。
「寝てろ。明日の夜には送っていってやるから。何か食べるもの買ってくるよ」
小さく頷くと素直に寝室に戻っていく。その様子を見送りながら、どろどろに溶けるように甘やかしたらどうなるのだろうと考える。相手はまだ子どもだと何度も自分に言い聞かせてきた。それだけがブレーキだった。けれども自らそれを外してしまったのだ。
もう前へ進むしかないのだ。
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