第十四章 碧緑

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 桜井の別荘へは割とすぐに着いた。この時期の軽井沢は紅葉が見事だ。かなり混雑しているだろうと覚悟をしていたが、時間が早かったためか、そうでもないようだ。高速から降りた多くの車はアウトレットモールの方へと流れていく。  旧軽井沢の奥まったところにあるその場所は、父親から譲ってもらったと聞いた。管理が大変で売るにしても今では二足三文だと笑っていたが、手入れもされていて贅沢な作りの別荘だった。週に一度は業者が入っていて、いつも使えるようにしてあるとは言っていたなと思い出す。  「ここですか?」  目を丸くした碧稀が恐る恐る車から降りる。  「ああ、借り物だが、なかなかだな。とりあえず荷物を置いたら歩いて飯だな」  少し遅めの朝食を済ませた後、そのまま通りを歩いた。まだ開いていない店もあり人通りもまばらだ。誕生日をこうやって誰かとゆっくり過ごすのは何年ぶりだろう。  「御園さんピアスつけるんですね」  「会社にはつけて行かないけれどね。ん?欲しいのか?」  「あの、誕生日に欲しいものって、その、お揃いのものって、それでもいいですか」  その柔らかな耳朶を親指と人差し指の腹で挟むようにそっと触る。思っていたより薄く柔らかい。  「開けてやろうか?」  頷いた碧稀はあまりにも無防備な子供のようだった。この真白な青年を一つずつ、これから自分で汚していくのだと考える。それだけで体温が上がる。呼吸が荒くなる。今、我慢しているのは碧稀でなくて自分なのだ。汚したくない、けれどもぐちゃぐちゃにしたい。征服したい。熱くなる体を鎮めるために深呼吸をした。
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