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『驚いただろう。ごめん』
部屋に戻ると碧人にメッセージを送る、既読はすぐにつき返信が来た。
『驚いたって言うか、うん、驚いた。ごめんね、来るなって言われていたのに』
『いや』
『あのさ、明日会える?』
次の日の午後、碧人がアパートへとやってきた。入り口で中をうかがうような視線を奥へ向ける。
「誰もいないよ、大丈夫」
「リョウちゃん、本当にごめん」
「いや、俺の方こそ」
「俺に言えなくて悩んでたんでしょう?大丈夫だから」
「え?」
「大丈夫、たとえリョウちゃんの恋人が男の人だって、俺にとってはさ、大切な家族みたいなものなんだ。うん、そう兄貴だし親友だし。とても大切な人なんだ」
ああ、いっそのこと切り捨ててくれれば良いのに。そうすれば解放される。「大丈夫」という優しさがどれだけの棘を持つのか。罵られるよりも残酷だ。
「そうだな……そうだよな」
今この瞬間を逃しては一生後悔する。それは分かっている。伝えるべき時は今しかないのだ。けれども碧人の笑顔がそれを拒んだ。碧人へと向ける御園の感情、その執着は単なる友人としてのものではない。そのことに微塵も気が付いていない碧人の笑顔が拒むのだ。
「リョウちゃんの味方だから、いつでも相談に乗るからさ」
「……ああ」
御園の長い初恋は言葉として碧人の前で舞うこともなく胸の奥で結晶のまま砕けて散った。
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