侍女 前編

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去って行った李成を見送りながら夕緋はため息を吐いた。 「夕緋様、遅れてすみません」 「いや、大丈夫だ。それよりお前……」 目の前の夕緋は手で顔の半分を覆う。 (そんなに変かなぁ……) 夕緋の反応になんだか心配になり、顔を覗き込む。 「……っつ!」 夕緋は声にならない声を漏らし、ざっと音を立て後ろに思いきり下がった。 「ど、どうされたのですか!?」 朱嚥は驚いて夕緋に問うと 「…………に、似合っ、てる」 夕緋は横を向きながら、言う。その耳は真っ赤に染まっていた。 それに気づいた朱嚥の頬も自然と紅に染まる。 (……こ、これは) はっと朱嚥は自身の胸を抑える。 (おっ、今日は(さらし)で上手く平らに…………ではなくて!) 突然鼓動が早まった。 しかし今の朱嚥にはその理由が全く分からなかった。 同時に夕緋はごほんと咳払いをして、朱嚥の方に向き直った。 「は、話が逸れた。今から官女……じゃなくて侍女として出自してもらう。相手は皇太后様ゆえ、失礼の無いように」 と、どこか他人行儀な口調だった。 自分も取り乱さないようにしないと、と朱嚥は顔を上げ答える。 「分かりました。……しかし、この格好は侍女にしては些か派手では無いでしょうか?」 朱嚥の質問に夕緋はちぎれそうな程首を横に振る。 「お……んんっ、皇太后様は侍女を着飾ることが趣味だ。それくらいの格好でも問題ないだろう。と言うよりもっと着飾った方が良いの位だ。」 夕緋の言葉に朱嚥の気がどんどん沈んでいく。 聖陵の侍女に派手に着飾られた上に皇太后宮でも着飾られるかもしれない恐怖が朱嚥を襲った。 背筋がぞっとする。 「……あの、行かないという選択肢は……」 「無いな」 「ですよね……、はは。」 朱嚥から乾いた笑いが漏れる。 これは逃げられない。もし失敗したらどうしようか、いや、それよりも女と露見すれば首が飛ぶ。 どうか一族郎党は見逃して貰おう。 そう決意し、朱嚥は拳を握る。 「……何か失敗しても皇太后様は罰を下されない。主上も心優しい方だ、大丈夫だ。」 夕緋は朱嚥の肩に手を置く。 どうして考えていることが分かったのか。別の意味でぞっとするが、待ち合わせ時間まで半刻もない。 朱嚥は考えるより先に頭を下げていた。 「そうですね、もし僕が罪を犯した際には沙汰を下すのは僕だけにして下さい。」 「それは……」 夕緋が何か言おうとしかけた時、二人の目の前に一台の豪華な馬車が止まった。 皇太后宮から遣わせた馬車だろう。 「……もう時間ですね、乗りましょう。夕緋様」 朱嚥はそう言って馬車に乗る。 夕緋は何か言いかけた様だったが朱嚥にはそんなことを考える暇は無く、皇太后に女だと露見されない方法を頭で探していた。 「……あぁ、そうだな」 そう言って夕緋も続いて馬車に乗る。 そうして馬車はかたかたと音を立て皇太后宮へと向けて出発した。
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