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◆◆◆
で、いま、夕方の六時四十八分。
屋上には顧問の東初菜先生と、部員の森田航と山中笑美、そしておれとペーだけ。
集合時間は六時半だから、たぶんもうだれも来ない。
「うーん。やっぱり、だれも来なかったねえ」
言って、東先生が苦笑い。
無地の黒いTシャツに下は黒いジャージ、いつもの格好だ。
「でもあれだねえ、平くんが星に興味あるなんて、意外だねえ」
急に話を振られたペーが、完全にテンパりながら、
「ぜんぶ興味あります」
って、よくわからないことを言った。
「いいねえ。ぜんぶに興味があるのはいいことだよ。人生、勉強だからねえ」
言って笑う東先生の、生徒を全肯定してくれる感じと語尾を伸ばすクセが、おれは大好きだった。
十コ上の東先生は、ショートヘアに黒ぶちメガネで、オシャレな服のときをぜんぜん知らない。
だからほかの男子は東先生をそういう気持ちで見たことがないんだろう。でもおれは、ペーじゃないけど、東先生のぜんぶに興味がある。
「先生、これでいいっすか?」
東先生の私物の天体望遠鏡をセッティングしていた森田が言う。
「そうだねえ、いいよお。大丈夫」
森田はおれとちがってマジで星に興味があって、だから東先生とよく話が合った。
ちょっとそれは悔しいんだけど、おれもいま星の勉強をがんばってしてる。
「まあ、きょうは天体望遠鏡はあんまり使わない予定なんだけどねえ。『流れ星を見よう』の回だからさあ。結局、だれも来なかったけど」
自虐みたいなこと言って、東先生が足元の段ボールを見た。
中には小さな双眼鏡がいっぱい入っていて、この日のために東先生がいろんなとこから集めてきた物だとかで、「これも無駄になっちゃったねえ」って言いながら、中から取り出した双眼鏡をおれらに配っていく。
「先生、ほんとに見られるんですか? 流れ星」
山中が疑いの目を向けて言う。山中は占いとかロマンチックなものが好きなヤツで、それで星とか星座に興味をもって入ってきたヤツだ。
「大丈夫でしょー。流れ星ってけっこうあるし。一時間もあれば、十個くらいは見られるんじゃないかなあ」
「そっか。なら、願い事し放題ですね」
「あっは、そうだねえ。時間は一時間しかないけど、いっぱい見つけて、いっぱい願い事しちゃおう」
「そうしますそうします」
呑気な会話を聞きながらペーを見ると、分かりやすすぎるくらいテンパってた。
そうだった。忘れてた。
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