願い事は、世界平和

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「先生、あの、給水塔のとこ行って、そこから見てもいいですか?」  ガマンできなくなったみたいで、ペーが急に言う。 「給水塔?」 「はい。あの——」入口の脇の壁から生えたハシゴを指さすペー。「——あそこから」 「うーん。でも危なくないかなあ?」 「大丈夫です。気をつけるんで」 「うーん」  東先生が困った顔をする。  東先生を困らせるぺーにちょっとムカついたけど、それが理由で連れてきちゃったし、助けてやろう。 「先生、とりあえずぺーに行ってもらって、安全かどうか見てきてもらったらいいんじゃないすか?」 「そうだねえ。じゃあ、そうする?」 「はい! そうします!」  言って、ペーがおれに「グッジョブ!」の視線を送ってきた。  で、ふたりでハシゴのとこまで向かった。 「ありがとな」 「いいから、すぐ行って、すぐ取って、すぐ降りて来いよ。先生に迷惑かけんな」 「オーケー」  バカみたいに親指を立てて言って、ペーがハシゴを上っていった。 「あったか?」 「……あったよ」  なんか、ヘコんでんな。 「大丈夫か?」 「大丈夫じゃねえよ!」  だからなんで急に怒るの?  てか、どういうこと? 「どういう—」 「なんかあったあ?」  おれの声を、東先生の心配そうな声が遮った。 「プギッ!」  急な東先生の声に、ペーが豚声でこたえる。 「だ、大丈夫でーす。でもダメでーす。下りまーす」  言って、ペーが下りてきた。 「大丈夫だった?」 「はい、大丈夫です。でも上、めっちゃ汚かったから、ダメです」 「そっかあ。そりゃ残念だねえ。じゃあ、もどろっか」  言って、森田たちのほうにもどっていく東先生。  おれもペーと一緒にもどりながら、 「回収したか?」  って聞いた。 「うん。できたんだけどさ。上、マジで汚かったんだよ」 「さっき聞いたよ。なんだ、マジ上で見る気だったのかよ?」 「そんなわけないだろ。汚れてたんだよ、エロ本が」 「あー」  そういうことか。 「なんとかなんねえの?」 「とりあえず流れ星みつけて、願うわ」 「なんて?」 「決まってるだろ。『エロ本、キレイにしてください』ってだよ」 「ははっ」  史上最低の願い事だ。  で、もどったら、森田と東先生が並んで夜空を見上げていた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加