願い事は、世界平和

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「ありました、先生?」  森田と先生が一緒に並んでるのがなんかイヤで、つい言っちゃうと、 「うーん、ないねえ」  東先生が夜空を見上げたまま言った。  その横顔に見惚れてたら、 「ねえ、みんな願い事ってなに?」  って、山中が興味まるだしで聞いてきた。 「それ、教えたらダメなやつじゃねえの?」  森田がブスッとして言う。 「どうせ流れ星みつけたら三回いわなきゃいけないんだし、いま言っても同じでしょ。ねえ、先生も知りたいでしょ?」 「うーん、まあねえ」 「じゃあ、決まりで。ほら森田、言ってよ」 「……志望校に受かりますように、かな。あと世界平和」 「つまんねえ。なんだよ、それ」  ペーがブーイングして、森田がにらんだ。 「いいねえ。それでこそ中学生だよ」  東先生のフォロー。 「ペーは?」  山中に言われて、ペーがテンパる。  さっきペーの願い事を聞いてたおれは、笑いをこらえるのが大変だった。 「おれは……おれもあれだよ、世界平和」 「ウソつけ。一緒じゃねえかよ」  森田がブーイングして、ペーがにらむ。 「いいねえ。それでこそ中学生だよ」 「佐野は?」  山中に言われて、おれもテンパった。  ほんとの願いは「東先生のことがもっと知りたい」なんだけど、そんなこと言えるわけない。 「……おれも、世界平和かな?」 「うわーつまんない。ぜったいウソでしょ、それ。なんでみんな一緒なの?」 「うるせえな。じゃあ、お前はなんなんだよ?」 「……あたしは決まってるよ。世界平和」 「ウソつけ!」 「いいねえ。それでこそ中学生だよ」  言って、東先生が笑った。  笑ってくれたのはうれしいけど、なんか、いろいろバレてるような気がする。 「じゃあ、先生はなんなんですか? 願い事」  山中が聞く。 「うーん、なんだろ? ほとんど叶っちゃってるからなあ」 「叶ってるって、なにがですか?」 「そうだねえ。まず先生になるって夢は叶えたし、天体観測部を作るってのも叶えちゃってるしねえ」  それ聞いて、なんか……こう……胸がすげえ熱くなった。 「先生、まだ部活動になってませんよ」  森田が水を差す。バカ。 「あー、そっかあ。そうだよねえ」 「大丈夫ですよ、先生。ペーも入ってくれるし」  って、思わず言っちゃうと、 「あー、そっかあ。平くん、入ってくれるんだあ?」  って、先生が真に受けてしまった。 「はい。あ、いえ、うん、はい……」  これでペーの入部が決まってしまった。  ごめん。 「とにかくあたし、流れ星さがします」 「そうだねえ。じゃあ、みんなで探して、みんなで世界平和を願おう」  東先生に言われて、おれたちみんな夜空を見上げた。  星。  星。  星。  星。  そして、流れ星。  おれたちみんなで、世界平和を願った。
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