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気がつくと、涙が溢れていた。
「佐隈、一緒に風呂入ろうか……」
二人は洗面所に入った。まだ十一月だというのに洗面所の床は冷たい。翔太は浩史を背中から抱いた。筋肉のないその身体から制服の上着を脱がせ、スラックスのベルトを外す。と、それは浩史の足元に音を立てて落ちた。
木製の腰掛けに浩史を座らせ、背骨の浮き上がる青あざだらけのその背を抱いた。
「俺、あのお前とキスした日に、遺書を燃やしたんだ」
「遺書……」
「いつか死のうと思って、いつも遺書をポケットに入れて……」と、言うと翔太は大きく息を吐いた。「けど、止めた。佐隈に好きだって言われて。俺も佐隈が好きだって……。どう言ったらいいか分からないけど、死ぬのはもったいないな、って……。生きるのもいいかなって……」
翔太は浩史の背に額を当てて泣いた。
:
いつの間にか日付が変わっていた。翔太と浩史は、自転車を押してあぜ道を歩いた。浩史は足を引き摺っている。
「翔太、タバコ止めたんか。今日は苦くなかった」
「ああ、タバコもキスした日に止めた」
「なあ、翔太、明日はいい日になるといいな」
「うん……」
翔太は空を見上げた。牛乳を空一面に流したような天の川から金や銀の星々が今にも降りそうな夜だった。
完
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