いじめられっ子

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 1  三木翔太(みきしょうた)は、自分と同じ三年二組の佐隈浩史(さくまひろし)と校舎を繋ぐ渡り廊下の下にある男子トイレに閉じ込められていた。翔太は、この様にどこかに閉じ込められるのは何回目だろう、と胸の中で指を折った。   「僕はいじめられっ子なんや」  いつでも最期の時を迎えられるように、翔太のスラックスのポケットの中には大学ノートの切れ端に書いた遺書がいつも入っていた。  ――今日こそ……。    翔太はどこかの街にある全寮制の私立高校から編入したのだが、勉強もスポーツもできた。    浩史は「何で、翔太は勉強も出来るのに。クラスの全員やろ?」と口を尖らせて言ったあと、「主犯格の松田(まつだ)になぜ翔太を虐めるのか、訊いたんやけど、その返事は〈何かムカつく〉と理由だった」と顔を歪めた。    松田というのは翔太と同じクラスの松田徹平(てっぺい)の事だ。彼は翔太たちのクラスの裏リーダー的存在だ。彼は「翔太と遊ぶ奴は虐める」と仲間に虐めを加担させ、自分はそれを睨みを聞かせて見ていた、と誰に聞いた事があった。翔太は担任に訴えたが、大企業の役員をしているという彼の両親が学校にクレームを付けてから、担任さえ虐めの件は無かったことにされた。   「ああ、ほぼ全員……かな。悪いな佐隈。俺の巻き添えになっちゃって。まあ、加担しない奴らは、何があっても知らんぷり……だけど……」
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