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男子トイレには、一七五センチの翔太の手ががやっと届く場所に換気窓がある。翔太は懸垂の様にそこによじ登った。トイレの外で生徒たちが騒ぐ声が大きくなった。
「佐隈なら、ここから出られるかも……」
浩史は身長が一五三センチで、友人達から『猿』と呼ばれていた。
「僕……好きやで翔太のこと」
浩史が白い歯を見せた。
「いいよ。無理するなよ。佐隈、お前まで虐められるぞ」
「ええよ、僕が虐められて翔太の虐めが無くなるんやったら、それでええ」
浩史の二重まぶたの瞳から大粒の涙が溢れていた。その肉厚の唇が重なる。
――えっ、えっ……。
翔太の時間が止まっていた。自分の拍動が身体の奥で強く響いている。熱い粘液を纏った舌が唇に割り込み、生き物の様に口腔を探る。舌先が誘われる。熱く苦味のある唾液が翔太の唾液と混じり合い、行き場を失ったそれが口角から溢れ出す。喉を鳴らしそれを咀嚼する。翔太に血液が流れ込み、その重みを感じていた。
「翔太……タバコの味……」
浩史が顔をしかめた。
タバコは翔太が中学生の頃に交際していた年上の女性に教えて貰った。
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