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アデライデ
ラングリンドという国は、光の妖精の女王が統治する良き光の国だった。女王の光の加護によって、ラングリンドには影が入り込むすき間はなかった。影というのは、この世にあらゆる憂いや不安や心配や争いをもたらす魔物たちのことで、妖精の女王はもう千年もの間ラングリンドをそうした魔物たちから守ってきたが、そろそろ引退の頃合いだと考えていた。
ちょうどその頃、森の木こりの夫婦に、すばらしく美しい娘が生まれた。この夫婦は長くこどもに恵まれず、念願かなってやっと授かったひとり娘だった。アデライデと名づけられたこの赤ん坊は、その魂に宿した善良さと生まれ持ったやさしさのために光り輝いていた。アデライデの誕生は、森に住む妖精たちを通して女王の耳にも入った。女王はアデライデを一目見るなり、自分の後継者にふさわしいと思って喜んだ。とは言え、普通の人間であるアデライデに、ほんとうにラングリンドの女王が務まるかどうかはわからなかった。そこで妖精の女王は、しばらく様子を見てからすべてを決めることにしようと考えた。
女王がそんなことを考えていることなど露とも知らないアデライデは、生あるすべての生き物たちの命が輝く森の奥、小さな小屋で日に日に美しく育っていった。幼いうちに母を亡くしてしまったことは不幸だったが、やさしく愛情深い父とふたり、心から慈しみあい、支えあって暮らしていた。
アデライデが年頃になって来ると、その美しさにはさらに拍車がかかって、もはや光の妖精や仙女の類いと言われても、あっさり信じてしまいそうなほどに光を放って見えるのだった。アデライデをひそかに見守っていた女王は、それでもまだ決断しきれずにいた。アデライデは生きとし生けるものに愛情深く接し、森の獣や妖精たちも彼女を愛していたが、有事の際に魔と戦う力が備わっているかどうかは未知数のままだったのだ。
決断の時を引き延ばしたままだったが、女王は余生を過ごす準備のためと、疲れた体を癒すため、生まれ故郷である妖精の国に帰ることにした。里帰りの間に充分考えて、アデライデを後継者にするかどうかについて、最終的な決定を下すことにしようと決めたのだ。
しかし、その女王の不在の間に、アデライデは思いがけない事態に見舞われたのだった。
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