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アデライデはほんとうに美しい娘で、親の欲目を抜きにしても、おそらくはラングリンドでいちばんの美女と言っても言い過ぎではないだろう。実際、アデライデがまだほんの子どもの頃から、あちこちの家からアデライデを嫁にくれないかという申し出を受けてきた。ラングリンドは国の性質上、よその国々とは違って職業や身分による差別や偏見というものはほとんどなかったが、それでも一介の木こりの娘には分不相応ともいえる家柄からの打診も多くあった。それらのすべてを、アデライデはやんわりと拒否し続けてきた。かと言って、誰かひそかに想う相手がいるのかと問うても、そんな人はいないとはっきり否定する。アデライデは結婚というものに関心を示さないというのではなく、嫌がっているようにさえミロンの目には見えた。
「なぁ、アデライデ。そりゃわしだって、ほんとうはずっとおまえと一緒に、この森のなかで暮らしたいと思っているよ。だがわしももう若くはない。いつまでもおまえのそばにいてやれるわけではない。いつか、おまえより先に、わしは死んでしまう。そうなった後で、おまえがこんな深い森の中にたったひとりでいるかと思うと、わしは心配で夜も眠れないんだよ」
「……」
アデライデは透き通る空のような瞳に悲しげな色を浮かべてミロンを見つめた。その目に、ミロンの心もまた痛むようだった。
「可愛いアデライデや、わしはただおまえの幸せだけを、いつも願っているんだよ……」
父の愛のこもった言葉に、アデライデは悲しい瞳のまま微笑んだ。
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