夫婦の余暇

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夫婦の余暇

『  ホテル』へ向かう列の 一番前を走る車からは 険悪な空気が漏れ出している。 車内には二人の男女。 険悪なオーラを醸し出しているのは 女の方。 「ジェームズ、まだなの?」 この一言に込められた怨念はとても濃い。 その濃さを正面から受け止めた男は 「あと少し、多分」 気まずそうに答え、外の景色に目をそらす。 男の目には長々と続く美しいビーチ が映っていた。 「はぁ、着くまで時間がかかるなら予約はキャンセルして、適当なホテルでも取った後泳ぎましょうって、」 ―言ったわよね。 女は鋭い視線で男を一突き。 「でも、ガイドは30分位って」 男は気まずそうに笑う。 「あなたが気に入ってる30分はもう20分前に過ぎ去ったわ」 女は非難の手を緩めない。 「ハハ、確かにね。それなら海でも見て時間を潰すってのはどうだい?」 「あなたの方からしか、海は見えないの」 男はやってしまったと語るような顔をして、 目を輝かせた。 「おお!着いたよジューン!『  ホテル』だ!」 「やっっとね。でも古めかしいホテルじゃない。何が由緒あるホテルよ」 「有名人も泊まる一流ホテルさ、サービスは約束するよ」 「……」 女は不機嫌そうに顔を窓へ向ける。 「……そっちには何かある?」 男は気まずそうだ。至極気まずそうだ。 女は無気力に窓の外を眺めたまま答える。 「なーんにも。あるのはだだっ広い野原だけ、陸の孤島よ」 「じゃあ、刑事の僕は休みも捜査って訳だ」 「何のためにここまで来たのよ。夫婦水入らずでゆっくり楽しみましょ」 そう言って女は男の頬にキスをする。 こういう所が可愛いんだよなぁ。  男はしみじみ思った。 一組目ご到着。
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