1章 旅立つまでの日々 紐解いて 1

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1章 旅立つまでの日々 紐解いて 1

「瑠衣。学校から帰ったら、すぐに私の部屋に来るように」 「はい……」 「あの事は、誰にも言うなよ」  年の離れた半分だけ血のつながった兄からの命令に、僕は逆らえない。  僕は霧島瑠衣(きりしま るい)。  気が付けばもう高校2年生になっていた。  僕は日本を代表するホテルオーヤマグループ、森宮家の邸宅に居候する身上だ。  実父は森宮家の当主だが、母はその屋敷の使用人だった。  つまり……妾腹なのだ。  母は僕を産んだ後も……病に倒れるまで住み込み女中として勤め続けた。  だから幼い頃は日の当たらない女中部屋で、母と共に育った。  広大な屋敷には本妻の息子……五歳年上の雄一郎(ゆういちろう)さんと、後妻の息子の海里(かいり)という同い年の兄弟がいた。  彼らとは半分だけ血が繋がっているとはいえ、僕は認知はされていても籍が入っていらず、この屋敷での扱いは正直底辺だった。  後妻の海里の立場も、微妙と言えば微妙だったが……  海里の母は英国貴族の血統だったが、僕の母は北国の貧しい農村出身。  まったく別物だった。  僕がまだ6歳の時、母が結核にかかり隔離され、そのまま療養先で亡くなった。  その日を境に、僕は一人になってしまった。  母はただ運命に弄ばれた、美しく薄幸な人だったと記憶している。  母が死んだ後、屋敷を追い出され、路頭に迷わなかっただけでもましなのか。  たとえ蔑まれた人生を歩もうとも。  夢も希望もない毎日だ。  何よりも苦痛なのは、放課後、兄の部屋に呼ばれること……  
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