幸せの道標 18

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幸せの道標 18

 さぁ、いよいよ開式だ。  ランドスケープという名の白いつる薔薇のアーチを潜った先に、正装した海里が立っている。黒い燕尾服の僕と、白いタキシードのアーサーも、そこで柊一さまの到着を待っている。 9821aeef-c611-448e-b165-4c815d97ff89    新緑の木漏れ日は、まるでシャンデリア。  そよぐ風の音と小鳥の声が、今日の背景音楽(BGM)だ。  白いテーブルクロスが優しい風にはためき、舞踏会に舞うドレスのよう。  どこまでもファンタジックな光景が広がっている。  499664a6-77cc-4576-bce0-7554e2f254b2                    (イメージ画像・auさん作)  やがてスーツに着替えられた柊一さまと雪也さまが、楽しそうに歓談しながら戻って来られた。 「さぁこちらですよ!」 「瑠衣、すごいよ! いつの間に? ここは、まるでとおとぎの世界だ。よくここまで用意してくれたね」 「喜んでいただけて嬉しいです」     僕はアーサーの横に立って、これから始める柊一さまと海里の人前結婚式に期待を膨らませていた。  満開の白薔薇も、祝福してくれている。 「さぁ、これで揃ったね。瑠衣、始めようか」 「うん」  アーサーがシャンパンを開栓し、背の高い薄いグラスに注いでくれる。  白いテーブルクロスの上には、銀のカトラリーとゴールドの縁取りのプレートを整然と並べ、テーブルの上にも白薔薇をふんだんに飾った。 「俺たちの再会と門出と……『結婚』に乾杯だ!」 「瑠衣、あのね……実はお願いがあって」 「柊一さま? 何でしょうか」 「今から僕たちの前で結婚式を挙げて欲しいんだ」  海里の言葉に心が跳ね、柊一さまの言葉に驚いた。 「え、何を仰って……? 今日は柊一さまのお屋敷の継承と海里がこの家にやってきたお祝いをするのですよ?」  まさか僕にふられるとは思っていなくて、動揺してしまった。何の話だろうとポカンとしていると、アーサーが隣で幸せそうに微笑んだ。 「柊一くん、ありがとう。最高に良い案だ! 瑠衣、俺達もここで結婚式を挙げよう」 「アーサー……君まで何を言って?」  僕は困惑した表情でアーサーを見つめた。今日の主役は海里と柊一さまなのに、どうして僕が……僕なんかが出しゃばる場面ではないのに、困るよ。 「瑠衣……知らないのか。これは人前式だ。今から彼らの前で愛を誓おう」 「そんな……申し訳ないよ」 「瑠衣が主役だよ」 「無理……です」 「瑠衣、素直に受け入れて……ここには君の兄の海里と君が育てたも同然の柊一くんと雪也くんがいる。だから……またとない場所と機会じゃないか」  アーサーが僕の肩を抱き寄せ、強引に式を司る。 「でも……」 「流れに任せて」  この日のために練習したのか、とても流暢な日本語だ。 「海里と柊一くんと雪也くんの前で 今から俺たちは夫婦の誓いをする」  自然と拍手が湧いた。 「俺は幸せな時も困難な時も、ここにいる生涯の伴侶、瑠衣と心をひとつにして支え合い乗り越え、この先は英国で笑顔が溢れるあたたかい家庭を築いていく事を誓う!」 「うっ……」  僕はその言葉に、涙をはらりと零した。透明な雫がはらりと初夏の風に舞っていく。  信じられない……僕が主人公?   そんな……これは現実なの? 「さぁ瑠衣も誓ってくれ」 「アーサー、君って人は、こんなサプライズ……」 「瑠衣……これはおとぎ話のようだが、現実だよ。さぁ誓って欲しい」  アーサーが涙に濡れる僕の肩を、ギュッと支えるように抱きしめてくれる。 「分かった……僕とアーサーは互いを思いやり、心を一つにし、力を合わせて生きていきます。日本にいる海里、柊一さま、雪也さまに安心していただけるように努力し、英国でアーサーと共に生涯、暮らしていきます」  まだ夢見心地だったが僕も宣言すると、アーサーが突然、繊細なレースのベールをふわりとかけてくれた。  それから僕の左手を取って……。
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