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幸せの道標 21
海里と柊一さまの甘い会話を、アーサーに肩を抱かれながら見守った。
「瑠衣、海里はデレデレだな、相手があんな純真な子だもんな。しかし、じれったそうだ」
「うん、海里のあんな顔、初めて見たよ。そして正式な結婚式は1年後なんだね。雪也さまの手術の成功を見届けてからご自分も幸せになるという発想は、柊一さまらしいよ」
「優しい人に育てたな」
「ありがとう」
海里も、柊一さまの提案を受け入れてくれたので安堵した。
君はどこまでも相手に寄り添うことを知ったのだね。
「参ったな。俺たちもこのまま結婚式をしてしまおうと思ったのに、本当に柊一はいつも真面目で優しい子だね」
「森宮さん、すみません。でも誓約しました。ここに誓って下さったので、今はそれだけでも十分です」
柊一さまが、ご自分の薬指をそっと押さえて、甘美な微笑みを浮かべられた。その瞬間、柊一さまの細い指には、本当に銀色の指輪が輝いているように見えた。
「あっ……指輪が」
「瑠衣、俺にも今、確かに見えたよ!」
ここにいる僕たちは、皆、目に見えない愛を信じている者同士だ。
おとぎ話を信じる心は、『愛を信じる心』も育ててくれたのか。
「森宮さん……あのですね……もう、僕を先にもらってください」
しかも柊一さまの台詞とは思えない積極的な申し出を、海里にしたので、アーサーと顔を見合わせてしまった。
魔法の言葉だ!
「今夜、あなたの誕生日に……僕を贈ります」
あ……そうか。今日6月10日は海里の誕生日だ……良かったね、これは最高の贈り物になるね。
悪戯っ子のように、雪也さまも笑っておられる。
「海里先生、良かったですね! おめでとうございます」
「まったく君って子は」
海里は見たことがないほど、照れ臭そうにしていた。予期せぬサプライズに、一体どんな顔をしたらいいのか分からないようだ。目が合うと、助けを求めるような表情まで浮かべて、僕の知っている海里じゃないよ。
「瑠衣……俺は、今……どんな顔をしている?」
「海里、見たことのない程嬉しそうな表情だよ。良かったよ。どうか幸せになって、どうか幸せにしてあげて……」
僕は祈るような気持ちで、願いを告げた。
するとアーサーが僕を力強く抱き寄せて、快活に笑った!
「さーてと、瑠衣、俺たちはそろそろお邪魔のようだな」
「おい、それ以上揶揄うな。てっ、照れるだろう!」
****
「瑠衣、昨日話した通り、この後連れて行きたい所がある。いいか」
「君が行く所が僕の行く所だから、もちろんいいよ」
「ありがとう。では、皆に別れを……」
「分かった」
その日の夕方、柊一さまと雪也さまには強く引き留められたが、僕達は屋敷を去ることにした。アーサーが英国に帰国する前に、どうしても一晩過ごしたい場所があるとのことだったから。それに柊一さまの初夜は、やはり二人きりで過ごして欲しかった。
「では……柊一さまも雪也さまも、どうかお元気で」
「瑠衣、やっぱり行ってしまうの? もう一晩泊まっていけばいいのに」
「すみません。私の我が儘で……でもお二人にお会い出来て本当に良かったです」
ここから先は、お互い、二人だけの世界だ。
「瑠衣、お前もよかったな」
「海里こそ! 僕たちついにお互いに幸せを掴んだね。どうか元気で!」
「Have a nice trip!」
「Bon Voyage!」
さぁ、それぞれの恋路を航海しよう!
僕とアーサーはしっかりと手を繋いで、冬郷家を後にした。
あとがき(不要な方はスルーです)
****
ここで『まるでおとぎ話』との重なりが外れます。
海里先生と柊一の初夜やこちらからどうぞ→『まるでおとぎ話』花の蜜
https://estar.jp/novels/25598236/viewer?page=193
ランドマークの二人はどこへ行くのでしょうか。
いよいよもうすぐ、完結を迎えます。
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