番外編 その後の日々・英国編⑥

1/1
前へ
/392ページ
次へ

番外編 その後の日々・英国編⑥

「それでは雪也さま……これで寮の手続きも終わりました。この先は部外者は入れないので」 「ん、分かった。瑠衣、ありがとう! 日本まで迎えにきてくれて心強かったよ。お陰で外国にも慣れてきたし……この先はひとりで頑張るよ」 「日本にお手紙を出されて下さいね」  寂しい笑顔で送り出された柊一さまのことを思うと……余計なことかとは思ったが、つい差し出がましいことを言ってしまった。 「うん、出すよ! 必ず出すよ。だから安心して。瑠衣は瑠衣の生活をしっかりね」  逆に僕の心配までされてしまった。    雪也さま……なんだかどんどんしっかりされて来て、少し寂しいな。 「瑠衣……週末にはたまに面会に来てね」 「あ……喜んで」  だから、ふとした拍子に、甘えて下さるのはとても嬉しい!   「ロンドンに、瑠衣はもっと出てくるといいよ。笑里さんの赤ちゃんも楽しみだしね」 「そうですね……よいきっかけになりそうです」  隣に立っていたアーサーが目を細めて、僕と雪也さまの会話を聞いていた。 「雪也くん、君は出来た子供だ」 「もう~子供は余計ですよ」 「おう、出来た男だ!」 「ふふ、男は……まだ(くすぐ)ったいですね」 「男じゃないのか」 「男ですよ‼」 「ははっ!」    笑い声の混ざる、明るい別れだった。 「さぁ瑠衣、俺たちもこのまま帰ろう。俺たちのHome()に」 「そうだね。君にお土産も買ってきたんだ」 「お! ついにアレか」 「なんのこと?」 「だから君が忘れてきた(ふんどし)だよ。取り返しに行って来たんじゃないのか」 「あれ? あぁ……あれなら桂人にあげました。彼の方が似合いそうだし」 「えぇぇぇぇぇぇ……っ」  くすっ、アーサーってば、そんなにがっかりすること? 「アーサー、でもとっておきのお土産があるから我慢して下さい」 「ん?」 「夜のお楽しみです」 「それは、ワクワクするなぁ」  僕も甘いな。  列車の窓に幸せそうな君の顔が映るので、チラチラと見つめてしまった。それを見つかって揶揄われてしまった。  今日は個室ブースなので遠慮はいらない。 「瑠衣、俺を見るのなら直接見ればいい。日本人はみんなそんなに奥ゆかしく控え目なのか」 「さ、さぁ? 海里は違う思うけれども……」 「あいつはいつも柊一くんに熱視線を送っているよな」 「はい、そうですね」 「もっと砕けて……しゃべり方……もう戻して。俺だけの君になってくれ」  そのまま顎を掴まれて、顔を覗き込まれる。  窓から差し込む日の光が、君の金髪に当たってキラキラ綺麗だ。  アーサーに促されたので、頭に浮かんだ単語を並べるように口に出してみた。 「きれい……君の髪……とてもキレイ……透き通った金髪……僕……好き」 「瑠衣? お、おい、可愛いな! そのたどたどしい感じ、出逢った頃を思い出すよ」  悶える君に、ムギュッと抱きしめられた。 「あぁっ……きついよ」 「逃さないよ」 「も、もう……」  あ……君の心臓の鼓動がトクトクと聞こえてきた。 「ここ、君の音……いのちの音がするね」 「寂しかったよ、瑠衣。次からは絶対付いて行くからな」 「僕も……僕も寂しかったよ。僕の君には、やっぱり……いつも隣にいて欲しいよ」  二人は唇を重ねた。    優しくそっとそっと……甘く蕩けるキスを啄みあった。  駅に着くまでずっと……指を絡めたり髪を梳いたり、キスをしたりの繰り返し。  なんて、なんて甘い時間なのか。    
/392ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2980人が本棚に入れています
本棚に追加