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番外編 その後の日々・英国編⑥
「それでは雪也さま……これで寮の手続きも終わりました。この先は部外者は入れないので」
「ん、分かった。瑠衣、ありがとう! 日本まで迎えにきてくれて心強かったよ。お陰で外国にも慣れてきたし……この先はひとりで頑張るよ」
「日本にお手紙を出されて下さいね」
寂しい笑顔で送り出された柊一さまのことを思うと……余計なことかとは思ったが、つい差し出がましいことを言ってしまった。
「うん、出すよ! 必ず出すよ。だから安心して。瑠衣は瑠衣の生活をしっかりね」
逆に僕の心配までされてしまった。
雪也さま……なんだかどんどんしっかりされて来て、少し寂しいな。
「瑠衣……週末にはたまに面会に来てね」
「あ……喜んで」
だから、ふとした拍子に、甘えて下さるのはとても嬉しい!
「ロンドンに、瑠衣はもっと出てくるといいよ。笑里さんの赤ちゃんも楽しみだしね」
「そうですね……よいきっかけになりそうです」
隣に立っていたアーサーが目を細めて、僕と雪也さまの会話を聞いていた。
「雪也くん、君は出来た子供だ」
「もう~子供は余計ですよ」
「おう、出来た男だ!」
「ふふ、男は……まだ擽ったいですね」
「男じゃないのか」
「男ですよ‼」
「ははっ!」
笑い声の混ざる、明るい別れだった。
「さぁ瑠衣、俺たちもこのまま帰ろう。俺たちのHomeに」
「そうだね。君にお土産も買ってきたんだ」
「お! ついにアレか」
「なんのこと?」
「だから君が忘れてきた褌だよ。取り返しに行って来たんじゃないのか」
「あれ? あぁ……あれなら桂人にあげました。彼の方が似合いそうだし」
「えぇぇぇぇぇぇ……っ」
くすっ、アーサーってば、そんなにがっかりすること?
「アーサー、でもとっておきのお土産があるから我慢して下さい」
「ん?」
「夜のお楽しみです」
「それは、ワクワクするなぁ」
僕も甘いな。
列車の窓に幸せそうな君の顔が映るので、チラチラと見つめてしまった。それを見つかって揶揄われてしまった。
今日は個室ブースなので遠慮はいらない。
「瑠衣、俺を見るのなら直接見ればいい。日本人はみんなそんなに奥ゆかしく控え目なのか」
「さ、さぁ? 海里は違う思うけれども……」
「あいつはいつも柊一くんに熱視線を送っているよな」
「はい、そうですね」
「もっと砕けて……しゃべり方……もう戻して。俺だけの君になってくれ」
そのまま顎を掴まれて、顔を覗き込まれる。
窓から差し込む日の光が、君の金髪に当たってキラキラ綺麗だ。
アーサーに促されたので、頭に浮かんだ単語を並べるように口に出してみた。
「きれい……君の髪……とてもキレイ……透き通った金髪……僕……好き」
「瑠衣? お、おい、可愛いな! そのたどたどしい感じ、出逢った頃を思い出すよ」
悶える君に、ムギュッと抱きしめられた。
「あぁっ……きついよ」
「逃さないよ」
「も、もう……」
あ……君の心臓の鼓動がトクトクと聞こえてきた。
「ここ、君の音……いのちの音がするね」
「寂しかったよ、瑠衣。次からは絶対付いて行くからな」
「僕も……僕も寂しかったよ。僕の君には、やっぱり……いつも隣にいて欲しいよ」
二人は唇を重ねた。
優しくそっとそっと……甘く蕩けるキスを啄みあった。
駅に着くまでずっと……指を絡めたり髪を梳いたり、キスをしたりの繰り返し。
なんて、なんて甘い時間なのか。
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