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番外編 その後の日々・英国編⑨
池の端には日本式のベンチ、つまり縁台まで用意されていた。
「瑠衣、座って見てくれ」
「アーサー、すごい拘りだよ」
「エヘン‼ 力作だろ」
「え……もしかして、まさか……アーサー、君が作ったの?」
「まぁな」
びっくりした! アーサーが日曜大工をするなんて。
アーサーは少年のように得意気に鼻の頭を擦っていた。
「あれ?」
「ん?」
ふと見ると、シャツで隠れた部分に包帯を巻いていた。
「手、いつの間に……怪我をしていたのか。まさかこれを作る時に?」
「あぁ、こんなのかすり傷さ」
「駄目だ! 危ないことはしないでくれ!」
つい感情が昂ぶってしまう。
「瑠衣、ごめんな。心配かけて、かすり傷なのにおばあさまがぐるぐる巻きにしたのさ。ほら動かせるし痛くないよ」
肩を抱き寄せられたので、ことりと頭を預けた。
「う……今度は僕も手伝う」
「あぁ……小屋を作ってみたいんだ。自分の手で」
「もしかして、ここに建てる小屋を?」
「そう! 一からこの手で何かを作りあげてみたかったんだ」
アーサーが太陽に手をかざした。
僕も自分の手を見つめてしまった。
幼い頃……与えられるモノも受け取るモノもない寂しい手だった。
何も求めず、何も掴めず、ギュッと握りしめて耐え忍んできた手は、今は自由を掴み、愛を掴み……そして今度は何かを作りあげるのか。
アーサーと二人でカタチになるものを残してみたい。
「いいね。僕も手伝うよ!」
嬉しくなってアーサーに抱きつくと、アーサーが赤面した。
「あ……の、なんで赤くなるの?」
「る、瑠衣、自分の姿を見て見ろよぉ~、参ったな」
「え?」
女性物の浴衣の胸元が大きくはだけて、裾も割れてずいぶん卑猥な姿になっていた。
は、恥ずかしい!
男物の浴衣なら柊一さまや雪也さまによく着付けたので勝手がわかるが、女物は小さな子供の着付けしか経験がない。だから帯の結びが違ったのだ。
「瑠衣~ 淫らで可愛いな。俺にサービスを?」
「ち、違うから。そ、その言い方は、よしてくれ!」
つぅーと太股を撫でられ……そっと胸元に手を差し込まれる。すぐに胸の尖りを探り当てられてしまった。
「あ……駄目だよ。まだ小屋が出来ていない。それにこの椅子……壊れそうだ」
二人が体重をかけると、さっきからメリメリと変な音が……
「え? そんなことないだろ。ほら、こんなに丈夫だ」
アーサーが椅子の上で跳ねると……
メキメキバキッ――!
「わっ! 危ない」
アーサーが僕を横抱きして慌てて立ち上がると、ベンチがバラバラに崩れていった。
「あ……危なかった」
「……アーサー、君の腕前って」
「おかしいな。瑠衣を愛することにかけてはGod's handsのはずなのに」
「な、何を言って……」
ふかふかの芝生に降ろされる。
そこで浴衣を寛がされ、左右に広げられる。
露わになっていくのは……僕の素肌、僕の心。
桜柄の浴衣が、芝生にピクニックマットのように広げられる。
「ふぅん、まるで……庭に桜が咲いているようだな」
「あ……うん」
愛される。
愛したい。
僕は両手を広げて……アーサーを抱き寄せる。
この手で。
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