同人誌発行記念SS・番外編『英国の春』

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同人誌発行記念SS・番外編『英国の春』

796b9406-fb9d-4947-a3bd-a0f2625ef92d 同人誌発行記念SS🌸特別番外編『英国の春』 「瑠衣、どこだ?」 「アーサー、ここだよ」  瑠衣は、満開の桜の下に佇んでいた。 「Cherry blossomが美しいな。どうした? 浮かない顔だな」 「……」 「ホームシックか」 「いや、日本ではね、入学式の日には、桜の下で記念撮影する家族が多くて……」 「そうか、日本の入学は春だったな」 「うん……あのね……少し僕の小さい頃の話をしてもいい?」  珍しく瑠衣が過去を語ってくれるようだ。それがどんなに惨く辛いものであっても、俺は全部受け入れる。 「もちろんだ。さぁ聞かせて」 「実は……僕は6歳まで屋根裏部屋から殆ど出たことがなかったんだ。だからずっと小学校というものに憧れていて……」 「そうだったのか」 「でもね、ようやく小学校に通えるようになった時には、母が他界していたので、憧れの……桜の下で一緒に写真を撮る夢は永遠に叶わなかったんだ」  瑠衣が切なげに桜を見上げていた理由は、それなのか。 「それ以来、桜の樹の下に立つと母を思い出してしまうんだ。それから母の最期の言葉も……」 「最期の言葉? よかったら教えてくれないか」 「それが、今振り返ると、まるで君と出会うことを暗示しているようで……」    ……  るい、覚えておいて。人を愛することを忘れないで。どんな目にあっても、いつかあなたは、あなたを真実の愛で包んでくれる人と出逢えるはずよ。かあさんの分も幸せになって欲しいの。それが私の希望よ。 ……   「アーサーと巡り逢えて、本当によかった。母の願いを叶えることが出来たんだ」 「じゃあ、俺たちは親孝行出来ているんだな」 「……君の言葉って、いつも素敵過ぎる!」   瑠衣は切ない顔から一転して、晴れやかな笑顔を浮かべていた。 「ここで写真を撮ろう!」 「いいね! あの子を連れて来ても?」 「もちろんさ」  先日Londonから土産に持ち帰った小熊のぬいぐるみを、瑠衣が抱えてきた。 「この子に名前をつけたんだ」 「なんと?」 「……Mayと」 「あの坊やの名前か」 「可愛かったから、つい……」 「君は子供が大好きだもんな」 「えっと……僕の一番は、いつだってアーサーだよ」  瑠衣が甘く微笑めば、春風が優しく頬を撫でる。そこに茶色と白い兎もぴょんぴょんとやってきて、まさに楽園のような光景になっていく。 「撮るぞ」 「うん! あ、君たちも来てくれたの?」  足下で戯れる兎に、弾ける笑顔。  もう君の顔に、寂しさはない。 「そうだ、瑠衣、入学おめでとう!」 「え?」 「君は『幸せ学園』の一年生だ」 「素晴らしいね。じゃあ、お願いしても?」 「なんなりと、どうぞ!」 「あの……恋人だけでなく、僕の友達にもなってくれる?」 「I'm joyful because I met you. You are my kindred spirit!」 「『心友』と言ってくれるなんて……本当にありがとう!」  桜の樹にもたれて大きく手を広げれば、瑠衣が俺の胸にぽすっと飛び込んできてくれた。  俺限定で見せてくれるいじらしさ、可愛らしさは、今日も健在だ。  頭上からは、桜の花びらが、はらはらと舞ってくる。  「入学を祝う花のようだな」   英国にも、ふわりと春がやってくる。  瑠衣と過ごす日々は、毎日、幸せな色を重ねている。                          Happy ending!    あとがき (宣伝を含みますので、不要な方は飛ばして下さいね) ****  久しぶりに『ランドマーク』サイドを更新しました。  ご存じの方も多いと思いますが、3月14日に私の2冊目の同人誌『幸せな贈りもの2 ランドマーク』を発刊しました。沢山のご予約とお迎えありがとうございます。BOOTHのお知らせと重複しますが、内容は以下の通りです。  💕アーサーから瑠衣に贈る、盛大なラブレター💕  ■英国アンティークな雰囲気で仕上げた『ランドマーク、振り返る愛バージョン』(全文改稿&加筆のダイジェスト版)に書き下ろし2本、同人誌特典を多数お付けした、前回と同様ファンブック的な内容。  ■うちの子キャラシート(瑠衣・アーサー・芽生)  ■挿絵は5枚! そのうちの1枚は同人誌のためにおもち様に描き下ろして頂いたラブシーン(術後のアーサーと英国に舞い戻った瑠衣が10年ぶりに繋がる感動のシーン)です。  ■『幸せな存在』の芽生が高校生になり、英国留学に行く特別なSSも収録。  ■追加特典あります!  ホワイトデーに私からの購入お礼としてSSを1話PDFファイルで追加しました。既にご購入下さった方でしたら、購入画面から自由にダウンロード出来ます。→タイトル『成長と温もり』 夏休みの英国短期留学を終え、家族で自宅に戻ってからの後日談。瑞樹と高校1年生の芽生がメイン。 ****  本日更新のSSは発行記念とお礼で書き下ろしたもので、同人誌で書いた二人の後日談となります。ある春の日、幸せ色に染まる二人です。  同人誌はBOOTHにて、頒布中です。  https://shiawaseyasan.booth.pm/   
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