番外編 『赤い薔薇の騎士』1

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番外編 『赤い薔薇の騎士』1

こんにちは、志生帆 海です。 ランドマークではお久しぶりです。 今日からエッセイの小話に掲載した『赤い薔薇の騎士』を、加筆修正しながら、こちらで番外編として数日間、連載していきますね。 ちなみに、この話は1スター特典の『芽生の英国夢旅行』の続編になります。https://estar.jp/extra_novels/25761609 こちらを読んでいただくと、より物語が深まると思います。 それでは、中表紙からスタートです🌹 04bfbbb9-fd27-4a44-a906-fb5daa3c544a ランドマーク『赤い薔薇の騎士』① ****  あれからアーサーと僕は、薔薇色の幸せな日々を送っている。 『英国人は1日に7回紅茶を飲む』という言葉もある程、朝起きてから夜眠るまで、何度も紅茶を一緒に楽しむようになった。  ベッドの中で二人で肩を並べて飲むアーリーモーニングティーから1日が始まり、その後ミッドデイティー、ハイティーと続き、締めくくりにナイトキャップティーを、またベッドの中で飲むのが習慣だ。  といっても……眠りに就く身体を温めるために紅茶を飲むのに、結局パジャマを脱ぎ捨て、夜な夜な、求め合ってしまうが。  そんな甘い蜜月のような日々は、砂糖菓子のように消えてなくならない。これが僕の毎日だと実感できるようになった、ある日……  アーサーがモーニングティーを飲みながら、僕にこう告げた。 「瑠衣、今日はロンドンの屋敷に行ってくるよ」 「え……突然だね」  ご両親から何か緊急の呼び出しかと、つい身構えて、緊張してしまう。 「おいおい、そんな顔をするな。ちょっと実家に荷物を取りに行くだけさ」 「荷物?」  紅茶を注いでいた手を止めると、アーサーはふっと微笑んで、僕の髪を優しく撫でてくれた。 「すぐに戻ってくるよ。俺の思い出を引き取りに行くだけだから」 「?」  夕刻、君は約束通りに戻って来てくれた。  両手に革の大きなトランクを抱えて、うっすら額に汗をかいていた。 「えっ……そんなに大荷物だったの? 僕が駅まで迎えに行ったのに」 「この位、大丈夫さ。俺は君をいつも抱き上げて鍛えているからね」  アーサーが意味ありげにウィンクする。 「こんな風に……」 「あっ……」  そのまま玄関でいきなり足が浮きそうになるほど抱きしめられて、深い口づけを受けた。たった数時間離れていただけなのに、君が恋しくなっていたのはお見通しなんだね。 「瑠衣、寂しくさせてごめんな」 「あっ……んっ……」 「俺も、早く戻って、こうしたかった」 「……僕もだよ。アーサー、お帰りなさい」  濡れた唇を指の腹で撫でられ、僕の瞳を覗き込むようにアーサーが甘く微笑んでくれる。心があっという間に満たされていく。 「瑠衣、君が喜びそうなものを沢山持って帰ってきたぞ」 「一体、何なの?」  やっぱり、今日のアーサーはいつもより上機嫌だ。 「悪いが、おばあさまを呼んで来てくれるか。コンサバトリー(英国風サンルームのこと)にいるから」 「うん、分かった」  おばあさまと一緒にコンサバトリーに入ると、アーサが白いシャツを腕まくりして、僕たちのお気に入りのラブソングを口ずさんでいた。  ふふっ、珍しいね。本当に機嫌がいいんだね。  君がトランクの中から取り出してソファに並べているのは、小さな子供の衣装だった。どれも丁寧にオーダーメイドされた上等な衣装なのは、一目見て分かった。 「アーサー、これって……?」
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