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番外編 『赤い薔薇の騎士』2
アーサーがソファに並べた子供服は、どれもキッズのフォーマルスーツだった。
大人顔負けの濃紺のスーツだが、ネクタイとチーフは子供らしい若草色で遊び心もある。そう言えば……柊一さまが幼い頃、よく似たスーツを、奥さまのご希望で誂えたことがあったな。
(読者さま・まるさんが作って下さいました)
真っ白なベストスーツは、青空色のシャツにレモンイエローのネクタイとチーフで爽やかだ。こちらは雪也さまが、似たようなスーツをお持ちだった。
ふと日本にいる冬郷家のご兄弟を思い出し、懐かしい気持ちになった。
一際目を惹くのが、赤い薔薇のモチーフが白いシャツに立体的に縫い付けられているスーツだった。
なんて素敵なんだろう! このように華やかで情熱的な衣装は、冬郷家では見たことがなかった。
これを着こなせるのは、僕のアーサーだけだ。
「アーサー、おばあ様をお連れしたよ」
「あぁ瑠衣、ありがとう」
「あの? この子供服は……どうして?」
僕は状況が飲み込めず、立ち尽くしてしまった。
おばあ様は、僕の隣で懐かしそうに目を細めていた。
「まぁまぁ何をわざわざロンドンまで取りにいったのかと思ったら、懐かしいわね。これは全てあなたが着ていたものね」
「おばあさま、覚えておいですか」
「もちろんよ。特にこの赤い薔薇のスーツは、私が贈ったものだったわよね」
「そうです! 俺が8歳の誕生日祝いに着たものですよ」
「そうだったわね、懐かしいわね」
二人の会話に、胸が高鳴った。
アーサーの子供の頃は、僕の知らない世界だ。だが当時の衣装を見ることによって、小さなプリンスだった君が脳裏に鮮やかに浮かぶよ。
「瑠衣、どうだ? 俺もこんなに小さかったんだぞ」
「うん……うん、小さなアーサーを想像させて。あの、髪色は今と変わらないの? 目の色は同じだよね? こんなに可愛らしい衣装を着ていたなんて、あぁ僕も見たかったよ」
「うーん、着て見せてやりたいところだが、残念だが流石にもう入らないよ」
アーサーはおどけた様子で、赤い薔薇の衣装を胸にあてがって笑っていた。
「くすっ、しっかり想像するよ。君がおとぎ話の世界のリトルプリンスだった頃を」
「おいおい瑠衣、俺は生まれながらに騎士だ。せっかくなら騎士を想像してくれよ」
「あ……そうか、そうだね」
僕たちの様子を、おばあ様が微笑みながら見守って下さっていた。
「そうね、瑠衣にも見せたあげたいわ。私の可愛い孫が『リトルナイト』になった瞬間を。そうだわ。良いものを授けましょう」
おばあさまは、小さなカードにペンを走らせた。
『Enjoy every moment! From Grandmother』
「これを、そのお洋服のポケットに入れておきなさい。このお洋服が時を超えて旅立てるおまじないよ」
あぁ、素敵だ。
おばあさまの言葉には、いつも夢と希望が詰まっている。
「おばあさまはいつもロマンチックです」
「瑠衣……アーサー、よくお聞きなさい。夢を抱くのは、いつだって出来るのよ。老人になっても、頭の中は柔らかくいたいわ……諦めてしまうのが一番つまらないことよ」
「はい! 見習います」
僕とアーサーは声をぴたりと揃えて返事をした。
「あっ……」
「瑠衣、こちらへおいで」
僕とアーサーの気持ちは、いつだって揃っているんだね。
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