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冬郷家の春 4
目覚めると、俺はいつも通り素っ裸だった。
昔から眠る時位、何もかもから解き放たれたいと思い、パジャマを着るのが好きではなかった。年齢を重ねるにつれて背負ってきた鎧が重くなり、ますます苦痛になり、今ではもう毎日パジャマは着ずに眠っている。
今日もいつも通りの朝を迎えられたことに幸せを感じている。
満たされた気分で隣でスヤスヤと眠る柊一を抱き寄せると、きめ細やかな素肌に直に触れ、思わずうっとりとした溜め息をついてしまった。
「ん? あぁ、そうか……君も裸なのか」
昨日寝落ちたしまった柊一の着物を脱がしたのは、俺だ。
着物が皺になってしまうと今日着ていけないからと、脱がした。
それにしても……俺としたことが、すっかり失念していた。
両親が亡くなり冬郷家が傾きかけた時、柊一が貴金属だけでなく着物も手放していたなんて……きっとご両親の思い出のものばかりだっただろうに。
生きていくためとはいえ、さぞかし口惜しかっただろう。
昨夜、瑠衣から浅草はご両親のデートコースだったと教えてもらった。頻繁に演舞場に着物で出掛け、仲見世や浅草寺を散策されたそうだ。
俺も同じ場所に連れて行ってやりたい。
そろそろ起きようとカーテンを開いて朝日を招いたが、柊一はまだ夢の中だ。
剥き出しの白い肩に布団をかけてやると、窓の外で微かな物音がした。
振り返ると、正面の大きな樹を桂人がいた。
あいつ、また木登りか。
俺は全裸のまま堂々と桂人に歩み寄る。
それにしても……瑠衣もだが、桂人も全く俺の裸に動じない。
それが少し癪だ。
アーサーもテツも悔しいが、俺に引けを取らない美丈夫だからな。
朝食を部屋に運ぶように頼み、バスルームに向かいシャワーを勢いよく浴びた。
RーGLAY社のシャワーオイルは泡立ちも良く、香りもよい。
ホワイトティーは俺と柊一のおとぎ話の世界をイメージしたというだけだって、この館にしっくりくる。
ふわふわなタオルで体をさっと拭いて再び部屋に戻ると、柊一から真っ赤な顔でシーツに包まって丸まっていた。
「おはよう! 柊一」
「か、海里さん……僕の服はどこでしょう?」
「あぁ、着物が皺になると思って脱がしたんだよ」
「あ……着物! ありがとうございます。瑠衣から借りているのに失念して転た寝をしてしまいました」
「今日は着物で出掛けよう。だから君もシャワーを浴びないとな。さぁそこから出ておいてで」
柊一が涙目で首を横に振る。
「いいえ、僕……何もかも貧弱で……お見せできません」
「馬鹿だね。俺が君のその慎ましい体にどんなに欲情するのか知っているくせに」
優しく頬を撫でると、そっと目を閉じてくれた。
優しくキスをすると、頬を染めてくれた。
俺によって、桜色に色づく柊一が可愛い。
「あの……」
「朝からしてみる?」
柊一は暫く考えた後、耳朶まで赤くしてコクンと頷いてくれたので、そっと白いシーツの上に仰向けに押し倒した。
「本当にしていいの?」
「してみたいです……」
「可愛いね」
「では……君の体の負担にならぬよう、目覚めのキスから初めて、ゆっくりしてみよう」
柊一はいつまでもそのままで――
白薔薇の王子様でいて欲しいから。
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