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今年のクリスマス休暇は、英国留学中の雪也くんを我が家に招待することになっていた。
今年は日本へ帰国しないそうなの、年明けまで、ここでゆっくり過ごしてもらう予定だ。
そんな理由で、瑠衣は数日前から雪也くんが泊まる部屋の準備に夢中で、屋敷内を忙しなく行ったり来たりしていた。
瑠衣が執事に夢中になっている時は、とても生き生きしているので止められないんだよな。
それにしても瑠衣は相変わらず働きものだ。
俺の世話も相変わらず甲斐甲斐しく焼いてくれるし、俺への愛も深くなる一方で、本当に俺は幸せものだと、クリスマスによせて感謝の気持ちで一杯になっていた。
「瑠衣、そろそろ支度をしないと」
「もうそんな時間? ちょっと待ってね。コートを羽織ってくるよ」
瑠衣と一緒に、今からロンドンの寄宿舎まで雪也くんを迎えに行く。
瑠衣とロンドンで久しぶりにデート出来る。
しかも今日はクリスマスイブだ。
そう思うと、俺の心は少年のように高鳴っていた。
「瑠衣、支度は出来たか?」
「うん」
「ロンドンでは、ここに遊びに行こう!」
「どこに?」
「これさ」
『ウィンター カーニバル』のちらしを見せると、瑠衣は目を輝かせいていた。
「遊園地?」
「そうだ。冬場限定の遊園地さ」
「わぁ、そうなんだね。僕……初めてでワクワクするよ」
「スケートリンクもあるそうだぞ」
「すごいね」
少年のように目をキラキラと輝かす瑠衣。
君は相変わらず、何でも初心な反応をしてくれるんだな。
「アーサー、そこにはメリーゴーランドもあるかな?」
「もちろん、あるさ、一緒に乗ろう」
「素敵だね。君と行った遊園地を思い出すよ。懐かしいな。あぁ、楽しみだよ……ケホッケホッ」
ところが、急に瑠衣が咳き込んだ。
ん? そういえば、少し顔が赤いような。
もしかして――
「瑠衣、風邪を引いたな」
「え? この位大丈夫だよ。熱があっても働くのは苦ではないよ。あっ」
瑠衣がしまったという顔をする。
それは瑠衣が冬郷家の使用人として働いていた頃のことだと思うと、胸が切なくなるよ。俺なら絶対にそんなことさせない!
「瑠衣、俺の大切な瑠衣……よく聞いてくれ。頼むから熱があることを隠さないでくれ。君の身体は君だけのものではない」
「アーサー」
額にそっと手を当てると、やっぱり熱かった。
「よし! ロンドンへは俺が迎えに行ってくるよ」
「でも……カーニバルは?」
瑠衣が子供のようの甘えてくる。
「それはまた今度にしよう」
「……クリスマスイブのカーニバル行きたかったのに……本当にごめんなさい」
「誰だって万能じゃない。風邪は引きたくて引くものじゃないさ。俺の病も雪也くんの病もそうだろう?」
「うん……そうだね。とにかく早く治すことに努めるよ」
「そうだ。それでこそ瑠衣だ」
瑠衣の手を引いて家に戻った。
コートを脱がしてやり、部屋に連れて行き、暖かいフランネルのパジャマに着替えさせた。
「アーサー カーニバルには観覧車もあるのかな?」
「……あったよ。また来年行こう」
「ん……」
未練を捨てきれない瑠衣をそっと抱きしめた。
****
ロンドン寄宿舎に辿り着くと、懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
俺も今の雪也くんのように、古めかしい煉瓦造りの校舎で学んだな。
あの頃は恋も愛も、何も知らなかった。
同性の相手とこんなにドラマチックな恋愛をするとは、夢にも思わなかった。
全部、瑠衣だからだ。
瑠衣は俺の道標だから、俺は瑠衣を絶対に見失わない。
「アーサーさん!」
「雪也くん、元気そうだな。迎えに来たよ」
「ありがとうございます。あれっ、瑠衣は?」
「実は風邪で熱が少しあったので待たせてきたよ」
「えっ……そうなんですか」
「大丈夫だよ。熱はそう高くないので、一晩ぐっすり眠ればきっと良くなるよ。カーニバルに行けないのは悔しそうだったけど」
「カーニバル?」
「あそこさ!」
「あぁ」
車からカーニバル会場を指さすと、雪也くんは目を細めてまぶしそうに見つめた。
「僕も小さい頃、身体がとても弱かったので……遊園地自体に連れて行ってもらえなくて……ずっと憧れていました。冬の遊園地って澄んだ空気にイルミネーションが綺麗なんですよね。魔法がかかっているようだと勝手にイメージしていました」
「そうだったのか。せっかくだから俺たちだけで寄ってみるか。一度も行ったことないなんて」
雪也くんも行きたそうにしていたので誘ってみるが、彼はニコッと笑って首を横に振った。
「ありがとうございます。でも兄さまとの思い出があるので大丈夫です。行けなかったことより、優しい思い出がここに残っています」
「どんな思い出?」
「兄様が僕の部屋におもちゃの汽車を走らせてくれたんです。それをベッドから眺めているのが好きでした」
「なるほど……あっ、そうだ、我が家にも確か……」
あれは俺が10歳のクリスマス。
クリスマスには祖母の邸宅に遊びに毎年行っていた。
……
「アーサー Merry Christmas!」
「おばあさま、お会いしたかったです」
「まぁ、すっかり小さな貴公子さんね。今年のクリスマスプレゼントはもう幼かったかしら?」
「いえ、ずっとワクワクしていました。今年はなんだろうって」
「こっちにいらっしゃい」
おばあさまに連れて行かれた部屋には、目映いイルミネーションが瞬き、汽車が走り、観覧車と木馬がゆっくり回転していた。
![bcc53b7f-e366-471f-b76a-88de96309793](https://img.estar.jp/public/user_upload/bcc53b7f-e366-471f-b76a-88de96309793.jpg?width=800&format=jpg)
「わ、わぁ! すごい!」
「これは冬のカーニバル。寒い冬でも、これならお家の中でカーニバル気分で味わえるでしょう」
「流石です。おばあさま、ありがとうございます」
……
そうだ、あの時のおもちゃはまだ屋根裏部屋に置いてある。
「雪也くん、我が家に着いたら手伝って欲しいことがある」
「えっ……僕にもで出来ることがあるのですか」
「あぁ、君が適任だ。おもちゃの汽車に詳しいだろう?」
「はい、それはもう、自信はあります」
「瑠衣のために手伝ってくれるか」
「嬉しいです。僕が瑠衣のために何かを出来るなんて――」
****
その晩、僕は熱を出してしまった。
「雪也さま、すみません。明日改めてご挨拶しますね。うつしてしまいますので……もう……」
到着した雪也さまにろくに挨拶できないもどかしさ。せっかくのクリスマスイブを台無しにしてしまった悲しみに暮れて、僕は一晩熱を出してしまった。
翌朝……憑き物が落ちたように頭がすっきりしていた。
早めに休んだのが良かったのか、熱もすっかり下がって身体も軽くなっていた。
「アーサーいないの? どこだ?」
アーサーの姿が見えないのが不安になり、ガウンを羽織って廊下に出ると、隣の部屋の扉が少し開いていた。ここは予備室で普段は誰も使っていないはずなのに……不思議に思い部屋の中を覗くと、微かな物音と目映い光がチカチカと瞬いていた。
なんだろう?
吸い込まれるように部屋に入って驚いた。
「あっ! これって……」
そこはまるで冬のカーニバル!
小さなジオラマの街が立ち並び、ロンドンの街を汽車が橋巡り……
まるで冬のカーニバルのように回転木馬や観覧車がゆっくりと回っていた。
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「えっ……これは……一体」
そこにアーサーが現れる。
貴公子のようなアーサーの正装に見惚れてしまう。
「瑠衣、Merry Christmas! 君のために冬のカーニバルを持ってきたよ。さぁ一緒に遊ぼう」
「これ、君が一人で?」
「いや、雪也くんも手伝ってくれたよ」
「そうか、二人で作ってくれたのですね。すべては僕のために」
「あぁ、俺たち、瑠衣が大好きだからな。瑠衣、おいで……もう熱は下がったみたいだな。雪也くんはまだ夢の中だ。だから頑張ったご褒美をおくれ」
アーサーに抱きしめられ、朝のキスを交わした。
ここは僕たちだけの街。
僕たちだけのカーニバル。
君を独り占め出来る場所だ。
「アーサー、Merry Christmas! あぁ……もう、君って最高だよ」
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(まるさんメイドのぬいです)
「なんだか蕩けそうな顔をしているな」
「うん、このまま蕩けてしまうよ。君が好きすぎて……」
「瑠衣、嬉しいよ。俺の瑠衣……いつまでも一緒だ」
『ウインター カーニバル』 了
まるさんメイドのぬいと、ホテルのクリスマスパーティーの景色から浮かんだクリスマスのSSでした。クリスマス気分を味わっていただけたのなら嬉しいです。Merry Christmas!
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