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2023年特別番外編 Happy Halloween アーサー&瑠衣Ver.
「瑠衣、1年ぶりの日本だな。今日は白金に行く前に渋谷に寄ってみないか」
「あの辺りは人が集まって賑やかになっているらしいよ。どんどん進化し発展して……」
「なぁに、俺たちの愛の方が進んでいるさ!」
「ん……」
飛行機のファーストクラスでは、乗客のプライベートは守られている。
機内でアーサーから軽いキスを受け、心の中で少し動揺するが、甘い微笑みを返すことが出来た。
「瑠衣、もう逃げなくなったな」
「……君に慣れた」
「ふっ、嬉しいよ」
そのまま髪を指で梳かれ、耳を優しく撫でられた。
耳朶の先まで火照っているのが、バレてしまうね。
だが、それでいい。
君への愛は深まるばかり。
僕はそれを隠すつもりはないよ。
無事に飛行機は空港に着陸し、そこからリムジンで都内へ向かった。
車窓から東京の景色を見つめていると、込み上げてくるものがある。
君の元へ旅立った時は、もう二度と戻らないと思った日本。
もう未練はないと思ったのに、アーサーは定期的に最低でも1年に1度は「瑠衣の祖国に行こう! 瑠衣の実家でゆっくりしたい」と誘ってくれる。
「どうしてこんなに頻繁に?」
「日本にいる君を見るのが趣味なんだ。東洋の花は祖国で輝きを増すからね」
「くすっ、僕はアーサーが目立ち過ぎてハラハラしているのに?」
「俺が?」
「君の見事なアッシュブロンドに碧眼、その端正な顔立ち……通り過ぎる人が皆振り返るよ」
「それは瑠衣を見ているからだ。ノーブルな瑠衣、君は本当に美しい。心も身体も美しい」
僕たち、お互いに褒め合って擽ったい気持ちになった。
車を降りて、渋谷の道をぶらぶらと気ままに歩くことにした。
ところが今日は少し街の様子が変だ。
「瑠衣、今日は俺たち全然人目を引かないな」
「くすっ、それでいいよ」
「確かに! 瑠衣を独り占め出来て嬉しいよ。だが納得がいかない事がある」
「どうしたの?」
「何故皆、変な服を着ているんだ? あんなペラペラでつるつるな生地で、マントに牙……うーむ、あれはまさかドラキュラ伯爵のつもりだろうか」
「あ……そうか今日は……」
時差の関係で抜け落ちていたが、今日は10月31日Halloween当日だ。
日本でも最近は原宿の老舗玩具店がHalloweenのイベントを開催していると聞いたので、きっとドラキュラの仮装はその影響なのだろう。
つい執事の癖で聞いてしまう。
「アーサーも仮装をして歩きたいの? それなら衣装を調達しようか」
「仮装はしたい! だが、ここじゃない。今日は海里と柊一、テツと桂人と無礼講でHalloween Partyをしたい」
「それは喜ぶね。雪也さまが留学中で寂しい思いをされているだから」
「よし! ここはもういいから、早く白金の屋敷に行こう」
「あ、うん」
手を引っ張られる。
二階建てバスに乗ったあの日のように、君は僕をグイグイと引っ張ってくれる。
「瑠衣、君とこうやって走るのが好きだ」
「僕もだよ」
あの頃は受け身なだけだったが、今は違う。
僕も一緒に楽しみたいという気持ちで満ちている。
だから引っ張られた手を握り返し、アーサーに追いついた。するとアーサーがふっと目を細めて僕を見つめた。
「瑠衣、俺と並んでくれてありがとう」
「うん、さぁ行こう!」
今宵は素敵なHalloween Partyを催そう。
冬郷家の元執事として腕が鳴るよ。
ん? 海里の得意げな顔が浮かぶのは何故だろう?
『まるでおとぎ話』へ続く🎃
https://estar.jp/novels/25598236/viewer?page=512&preview=1
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