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ふと、時計が目に入った。
思いがけない話の流れで、ずいぶんと時間が経っていた。
「圭太、時間間に合う?」
「あー、厳しいかも。でも、ここに来た時点でギリギリだったし・・・」
再び手を動かしながら圭太の声に聞き耳を立てていたさおりだったが、急に声が途切れてテレビの音だけがずっと変わらず流れている。
不思議に思って顔を上げると、圭太の視線はテレビに釘付けになっていた。
「どうしたの?」
「予定変更。まず、ここに行こう」
圭太が指さしたテレビ画面には、どこか見覚えのあるフロアが映し出されていた。
「行きたいって言ってたよな?でもそのあとすぐにさおりのバイトが忙しくなって、まだ行けてないだろ?」
テレビの中の人たちがわいわいと楽しそうに見て回っているのは、一ヶ月程前にオープンしたばかりのショッピングモールだった。
いろんな情報番組で特集を組まれ、様々なお店が紹介されているのを見て興味を惹かれ、そういえばそんなこと言ったなとさおりは思い出した。
バイトが忙しくなる前の話だというのに、圭太は覚えていたらしい。
そんな些細なことが嬉しいのに、まだ少し戸惑いもあって。
(なんだろ。風向きが急に変わって、なんか、どうしたらいいのかわからなくなる)
それでも、今この瞬間が、幸せだと感じられた。
「まずはお昼にしようか。腹減ってきたわ」
「あ、でも、映画は?」
「一番最後の回が確か六時だから、それに間に合うように行こう。それまではさおりの行きたいところに付き合います。少しでもポイント稼いどかないと」
「ポイント?何の?」
「今のところ、俺ただの鈍感野郎じゃん。そうじゃないところを見せていかないとな」
そんな心配はいらない、とは言わないことにした。
(そう言うなら、今までの分、圭太にはしっかり尽くしてもらおうかな)
さおりの胸の内を知る由もない圭太は、お昼に何を食べようか、お店を検索し始めた。
鏡に向き直ってそこに映っているさおりの顔は、言うまでもなく。
(無駄じゃなかった。頑張ってきて、無駄にならなくて、本当に良かった)
メイク道具に手を伸ばして目にとまったリップに、さおりはふと思いついた。
(気になって買っておいた新作のリップ、そういえばまだ使ってなかった。せっかくだし、今日使ってみようかな。圭太、気付くかな・・・気付かないだろうなぁ)
いつの間にか部屋のカーテンは開けられていて、ガラス越しに見える空は青空で。
注ぎ込まれる光が、この部屋を満たしていくようだった。
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