ふたりの休日

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ふたりの休日

 ゆっくり目を開いて、少しの間、さおりは見慣れた天井をボーッと眺めていた。 アラームが鳴り響くことのない、こんなに穏やかな目覚めはいつぶりだろう。 その割に、閉めきったカーテンの向こう側が少し騒がしい気がするけれど。 枕元にあるはずのスマホを手探りで探し当て、時間を確認すれば、それも納得がいった。 (あれ、もうこんな時間) 十時を過ぎているのだから、街はとっくに動き出していて当然だった。 でもお昼はまだ過ぎていなかったことに安堵して、さおりはベッドの上で思いっきり伸びをした。 (とりあえず、もうひと眠り・・・) 最近の慌ただしい生活も一段落して、久しぶりに何の予定も入っていない休日だ。 思う存分ダラダラと過ごすことを、前々から決めていた。 寝返りをうって自分のベストな態勢を整えると、少しずつ意識が遠のいていく。 ピンポーン。 夢か現実かわからないまどろみの中で、かすかにその音は聞こえてきた。 せっかく心地よい気分だったのに、さおりの意識が少し引き戻されてしまった。 それでも体は動かさず、再び眠りにつこうとしたところで、また同じ音が聞こえてくる。 今度こそ完全に目が覚めてしまったさおりは、少し苛立ちながら起き上がった。 すると、スマホに何やらメッセージが届いた。 この瞬間、部屋の前にいる人物とこのメッセージの送り主がきっと同一人物であることに、さおりは気付いた。 画面に表示された名前と、『開けて』の文字に、ついうっかり毒を吐きそうになって。 (やっぱり。あいつめ・・・) 声には出なくても、心の中では漏れ出てしまっていた。 疲れが残っているのか、少しだるい気がする体でドアを開ければ、そこに立っていたのは、圭太だった。 「何してんの?」 「え、いきなり?なんで怒ってんの?」 「惰眠をむさぼり尽くそうとしているところを邪魔されたから」 「確かに、見るからに寝起きだな。ごめんごめん」 圭太が苦笑して、改めてさおりは、自分で自分の格好を見た。 下は黒のジャージに、上は裾が長めの白いTシャツ。 可愛らしい部屋着やパジャマを持っていないさおりは、これが部屋で過ごすときの基本スタイルだった。 加えて、十分程前まで寝ていたのだから、メイクどころか髪も手櫛で少し梳いただけ。 (さすがに気にしなさすぎたかな) そう思ったところで、もう時を巻き戻すことはできないけれど。 仮にも好きな人の前に、平気で出て行けるような格好ではなかった。 (まぁ、どんな格好してようと意味ないんだけど) 「で、何?」 「この間見た映画が当たりだったからさ、今度はさおりと一緒に見に行こうと思って。ほら前に、あんまり惹かれないなって言ってたやつあっただろ?」 「あぁ、洋画だっけ?」 「そうそう。興味ないみたいだったから俺一人で見てきたんだけど、あれは見た方が良い!予告じゃわかんなかったけど、さおり絶対好きだと思う」 「そんな断言していいの?ハードル上がってるけど」 「今まで俺がこう言って外したことあったか?」 圭太はニヤリと笑ってみせた。 「・・・ない」 「だろ?今から行けば、午後一の上映に間に合うから、早く準備しろよ」 そう言いながらスルスルと、圭太は自然にさおりの部屋に上がりこんだ。 「いやいや、私の話聞いてた?今日はどこにも出かけない予定で・・・」 「その映画、今日までなんだよ。さおりにも見せたいんだ。わかったら急いで。さすがにそのまま外に出られないだろ。俺は別に気にしないけど」 圭太は我が物顔で、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。 テーブルに移動すると、リモコンを手にしてテレビの電源を入れる。 (ここはあんたの部屋じゃないだろ) 内心でそう思いつつも、自分の部屋で圭太がくつろいでいる姿を、さおりはもうすっかり見慣れていた。 それもそれで複雑な思いではあるけれど、無理矢理追い出すようなこともしない。 (だって一緒に見に行こうとか、私に見せたいとか言われたら、断れるわけないじゃない) さおりはもう文句を言うこともなく、出かける準備を始めた。
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