最終話

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最終話

そんな泉ビジネスが順風満帆にすすんでいたあるとき、男は病に倒れた。これまで彼は、病気という病気をしたことがなく健康そのものだった。そのため、弱者の気持ちなど考えたこともなかったが、自分が当事者になってはじめて、こんなにも心細いものなのかとショックをうけた。 まもなく医者がやってきた。男をひと通り診察すると、医者は申しわけなさそうに告げた。 498506ec-8028-4d6d-8c41-a21d14f556c0 「あなたは末期の重病です。なおる見込みはありません」 「そんなばかな。金はいくらでも出す。だから、助けてくれ!」 男は医者に泣きすがった。 「残念ですが、いくらお金があっても今の医療技術ではどうにもなりません。奇跡がおきるよう、神に祈るしかないですな」 医者はそう言いのこして帰っていった。 病にふせるベッドの中で、男はあのほんものの像のことを思い出していた。もし、あの像を壊さずにいたなら、自分の病気もなおしてくれただろうか。じんわりと目に涙がにじんできた。でも、今さら悔やんでも、もはや手おくれ。 e23ff40f-4c83-4e53-9ff1-4ad573f0bd81 数週間後、欲ばりな男は、ほんものの像を壊してしまったことを悔やみながら、大金を残して亡くなった。あとつぎがいなかったので、そのお金は公共のものとなり、人びとのために使われることとなった。 すべてはあの神様が仕組んだことだったのだろうか。ほんとうのことは、誰にもわからない。
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