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第3話
ふりむくと、うすよごれた店の軒先に、すすけた像が置いてあった。この辺にこんなさびれた古道具屋なんてあっただろうか。男はふしぎに思った。
「そんなすすけた像などいるものか……いや、まてよ」
男は、もう一度その像をながめた。
なるほど。こいつは、神秘の泉にうってつけかもしれない。ぴかぴかの像より、これくらいくたびれていた方がほんものらしく見えることもある。よくみれば、なかなか含蓄のある表情をしてなくもない。
男は少し考えてから、こう言った。
「よし、買ってやろう」
「お買い上げありがとうございます」
男はその像を持ちかえり、さっそくあのしょぼくれた泉の真ん中へおいてみた。ついでに〈奇跡の泉〉と書かれた大きな看板もとりつけた。
「うむ。なかなかいいできだ。これならすぐに、だれかやってくるだろう」
男は満足げに泉をみつめた。
次の日、さっそく車いすにのった女の子が母親とやってきた。
母親が泉に小銭を投げてお祈りをすると、不思議なことに女の子は車いすから立ちあがった。
「まぁ。ほんものの奇跡だわ。奇跡の泉さまありがとう」
車いすにのっていた女の子は、母親と歩いて帰っていった。
次の日もその次の日も、人がやってきた。彼らは小銭を投げてお祈りをすると
「ほんとうに奇跡がおこった。奇跡の泉さま、ありがとうございます」
と口ぐちに感謝の言葉をのべた。どうやら、みな病気やけががなおったようだった。
こうして、なんの変哲もないただの泉は、ほんものの奇跡の泉として知られ、多くの人びとがおとずれるようになった。その様子をみて、一番驚いていたのは家主の男だった。
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