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第5話
「おれは盗みなどしていない」
男はおそるおそる答える。すると、ふたたび声が。
「人のお金を勝手にとるのは盗みです」
どうやら、像の方から聞こえてくる。
「なんだと。これはおれの敷地内にあるのだから、おれの金だ」
「このお金はあなたのものではありません」
「じゃあ誰の金だというんだ」
「このお金はみんなのものです。お金に限らずこの世にあるものはすべて、みんなのものです。誰かひとりのものではありません。この土地だって、あなたがたが勝手にあなたのものだといっているだけで、本来あなたのものではありません」
「じゃあ、さっきの貧乏くさい親子がひろっていったのはなんなんだ。あれだって、あいつらのものでないのに盗んでいったじゃないか」
「さきほどの親子はとても貧しく、明日食べるものも買えない状態でした。ほんとうに困っている場合は一時的なサポートとしてひろえるシステムになっています」
「そんなシステムを勝手に採用するな。その前に、おまえはいったい誰だ」
「わたしはこの世界では神様と呼ばれているような存在です。この像に宿っています」
「なんと、このみすぼらしい像にほんものの神がとりついていたのか」
そうだとすると、おとずれた人びとの願いがかなったのも納得がいく。
「ところであなたはすでに十分な富をもっている。それなのになぜ、さらにこの泉からも盗もうとするのです。むしろ、あなたのもっている財産をみんなに配ってしまったらどうですか。なんならわたしがくばってさしあげましょう」
「まてまて。そんなことはしなくていい。余計なお世話だ」
普通なら自分の家に神様がやってきたとあれば、ありがたがるところだろうが、欲ばりな男にとってははた迷惑なだけだった。
「このままでは、泉の金どころか、おれの全財産まであぶないぞ。あのいまいましい像をはやくなんとかしなくては」
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