悩みごと

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悩みごと

いつも通り湊と駅までの帰り道を歩きながら、れんげは考え事をしていた。 要は常に学年1位の成績だと、泉が言っていた。 湊も学年2位をキープしていたはずだ。 その二人が2年生になって最初のテストで競い合う。 それはいい。 学生の本分は勉強だ、と先生たちも常々言っているし。 けれども競い合う理由に自分が絡んでいるのが、おかしいような気がしてならない。 そもそも湊はれんげに好意を持って付き合っているわけではなく、しつこく告白されて仕方なく交際に至っているはずだ。 それなのに要が宣戦布告したことで、なぜか湊に火がついてしまったようなのが気にかかる。 好意のない関係なのだから別れればいい。 要とれんげが付き合うかどうかはさておき、どちらにせよ湊には悔やむ理由もないのだ。 「絶対振らないから」と言ったれんげの言葉を律儀に覚えていて一緒にいる、というのも考えにくい。 「うわっ!」 急に立ち止まった湊がれんげの前に立ちはだかり、二人はぶつかった。 「お前さ、ぼんやりしすぎだろ」 「え? そんなこと……あれ? ここどこ?」 「あんまりボケッとしてるから、どこで気付くかと思って試した俺が浅はかだった。時間無駄にしたわー」 「うう、ごめん……」 「で? ささやかな脳みそで解決できたのか?」 「え……」 悩んでいたことを見抜かれていたのだと驚き目を見開くと、湊はなんでもないことのように呟く。 「全部顔に出てんだよ」 「そう、なの?」 「幼児並みにはな」 むくれるれんげの頭に、ぽんぽん、と湊の掌が触れた。 子供にするような行為なのに、れんげの胸は密かに高鳴る。 意地悪な物言いに多少は慣れてきたせいもあるかも知れないが。 けれどもこうして見抜かれた時、れんげが誤魔化すことを湊は許さないだろう。 もちろん誤魔化し切る手立てもないのだけれど。 ちょうど目の前にあった公園のベンチに誘われ、れんげは気になっていた事を打ち明けた。 「私と付き合うのって、本性を知られて仕方なく、でしょ? 私がバラさなければ別れてもいいはずだよね。そうなれば東條君の挑発に乗る必要もないのかなって」 しつこく交際を迫ったのはれんげの方で、湊には毎回断られていた。 今考えれば、確かにストーカーのようだったのかも知れない。 だったられんげが湊から離れることで、幼馴染でもある彼らにこれ以上亀裂を生じさせなくても済むのではないかと考えたのだが。 恐る恐る見上げた湊の顔は、ものすごく怖い。 あまりに自分勝手なことを言うから腹を立てているのだと、れんげは湊の方へ向き直る。 「ごめんなさい。勝手すぎるよね。しつこく告白しといて今度は別れればいいだなんて……でも、結局迷惑しかかけてないし、そうしたかったんじゃないって言うか、だから、っ!」 こつん、と湊の肩に頭がぶつかった。 (え?) 湊の大きな手が、れんげの髪に優しく触れている。 抱き寄せられた理由がわからず、れんげの思考は止まってしまった。 湊の匂いがふわりと香る。 「仕方なく、以外の理由があるとは考えないのかよ」 「理由……」 「ボランティアで付き合うかって言ってんの」 その言葉に湊の顔を見上げようとすると、髪をかき混ぜられ阻止された。 「見んな」 ボランティアじゃない、と湊は言っているのだろうか。 私のこと、好き? 聞きたいけれど、今はこのままで十分だ。 頬から伝わってくる湊の熱に、れんげは静かにときめきを覚えた。
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