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すれ違う思い
コンビニで買ったものをバッグに押し込んで、れんげは湊の家へと急いだ。
湊の住むマンションの階段を駆け上がると、教えられた部屋の前で「成瀬」の表札を確認しチャイムを押す。
心臓がバクバク鳴るのは、きっと走って来たせいだろう。
程なくして湊が現れた。
制服のネクタイは抜き取られ、襟元から二つ目までボタンが開けられているシャツも裾はズボンから引っ張り出されている。
学校で見せるのとはまるで違う姿だけれど、だらしないというよりはなんだか目のやり場に困るような艶やかさに戸惑った。
当惑を悟られないように、れんげは買ってきたものを次々に押し付ける。
蜂蜜入りののど飴に、ミントが爽やかな飴、それにスポーツドリンク、野菜ジュースにプリン。
とにかく栄養を摂って元気になってもらわなければ。
「おい、こんなに……」
「いいから。しっかり休んでね。それから……もしも東條君に勝てなくても……私は気にしないから」
れんげはからりと笑顔を見せた。
決して「どうでもいい」という意味の気にしない、ではない。
湊の重荷になるのが嫌だから。
二日後から始まるテストに対しての気負いを少しでも無くして、努力の成果を発揮して欲しい。
勝敗にはこだわらないが、湊の積み上げてきたものを守りたかった。
れんげの笑顔とは対照的に、湊は眉間にしわを寄せている。
喉の痛みが辛いのかもしれない。
悪化させないよう、早くここから立ち去らなければと思い、唇を引き結ぶ。
「お前はいいのかよ、俺が負けても」
「……うん、気にしないで」
湊が負けるのは悔しいけれど、だからと言って要と付き合う気はない。
そもそも要が勝手に言い出したことで、れんげ自身は全く納得していないのだから。
「はぁ」と溜め息を吐いた湊の表情が曇り、辛そうに見えた。
これ以上話していると、湊を疲れさせてしまう。
「早く、休まなきゃ。帰るね」
「ああ」
短く告げて、れんげは帰路につく。
明後日から始まるテスト勉強を自分もしなければ、と思うけれど、辛そうな湊の事が引っかかり頭から離れてくれなさそうだった。
せめて湊の風邪が治ってくれたらいいのだけれど。
れんげは駅までの道を、湊のことを考えながらゆっくりと歩いた。
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